不動産投資の法人化タイミングは?メリット・デメリットや設立手順を解説

不動産投資には、「法人化すべきタイミング」があります。この記事では、不動産事業を経営している方、これから始めようとしている方に向けて、法人化の最適なタイミングや、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
法人化する際の設立手順も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
不動産投資の法人化とは?
不動産投資の法人化は、一般の法人とは違い、主に「法人が資産管理する」ことを目的としたケースがほとんどです。所得の一部を資産管理会社に移転することで、節税・相続税対策になるなど、多くのメリットを生み出します。
不動産投資を法人化する5つのメリット
ここでは、主要な5つのメリットを紹介しましょう。
1.税率差により大幅な節税が見込める
法人化した不動産事業は、所得税と法人税の税率の制度の違いによって大幅な節税が可能です。
現在、累進課税制度(※1)が採用されている所得税は、最大で45%もの税率になります。一方、法人税は税率が一定水準に留まるため、高所得者ほど節税効果が高くなるしくみです。
【法人税の税率】普通法人 資本金1億円以下の中小法人の場合
| 法人税の税率 | ||
|---|---|---|
| 年間所得800万円以下の部分 | 適用除外事業者 ※2 | 19% |
| その他の法人 | 15%(所得10億円を超える事業年度は17%) | |
| 年間所得800万円超の部分 | 23.2% |
※1 累進課税制度:課税所得が増えるほど高い税率が適用されるしくみ
※2 適用除外事業者:過去3年間の平均所得金額が15億円/年を超える法人
参考:国税庁|所得税の税率
参考:国税庁|法人税の税率
2.法人ならではの経費がある
法人特有の経費計上ができるのも、不動産投資法人化のメリットです。法人になると、下記のような個人では認められない経費計上ができ、所得圧縮の手段が増えることで節税効果が高まるでしょう。
- 役員報酬
- 社宅家賃
- 出張手当
- 生命保険料 など
3.欠損金(赤字)を10年間繰り越せる
事業が赤字の場合でも、法人は大きなメリットを享受できます。青色申告の個人事業主の場合、大規模修繕などで出た赤字を繰り越せるのは3年ですが、法人の場合は10年繰り越しが可能です。
法人は、長期にわたって欠損金を繰り越せるので、赤字額が大きければ大きいほど、先々の経営にも大きな節税メリットをもたらすでしょう。
参考:国税庁|青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
4.相続税対策と事業承継の円滑化
不動産投資を法人化して「株式」として資産を保有すると、相続や事業継承の際に有利になる可能性があります。株式は、分割が容易なだけでなく、株価が低い時に相続、贈与すると税額を抑えられる可能性が高まるからです。
また、事業承継には、法人、個人ともに優遇制度がありますが、法人の方が比較的手続きがシンプルで、円滑に手続きを進めやすいでしょう。
参考:国税庁|事業承継税制特集
5.信用力向上と融資枠の拡大
法人になると、社会的な信用度がアップするだけでなく、銀行の融資が有利になる傾向があります。
通常、個人事業主の銀行融資=与信枠は、一般的には自己資金の3倍程度とされています。しかし、法人化すると、与信枠の決定は事業の実績が大きく影響することから、プロパー融資(※3)が受けられる可能性が高まり、事業規模の拡大につながるでしょう。
※3 プロパー融資:金融機関が信用保証協会の保証をつけず、自社責任で行う融資
保証料が不要になり、融資の限度額の上限がないため、審査は厳しく高い信用力や実績などが求められる
不動産投資を法人化する3つのデメリットと注意点
不動産事業の法人化には、いくつかのデメリットもあります。ここでは、法人化の知っておくべき3つのデメリットを、注意点を交えて紹介します。
1.設立費用とランニングコスト
法人化すると、約20万円~30万円程度の設立費用や、税理士報酬などの固定費が発生します。また、赤字であっても、毎年約7万円の法人住民税(均等割)の納付が必要です。
さらに、廃業時にも、解散登記や専門家への報酬などが発生するので、法人化はよく理解したうえで決定するのが重要です。
2.長期譲渡所得(売却益)の税制優遇がなくなる
個人事業者が不動産を売却した際には、短期譲渡所得39.63%、長期譲渡所得20.315%の税率が適用されます。5年超所有していた不動産の場合は長期譲渡所得の扱いとなり、短期と比べて約半分の税率で、高い節税効果が見込めるでしょう。
しかし、不動産投資事業を法人化すると、この優遇制度の対象外となり、保有期間に関わらず、実行税率(※4)30%超の法人税が課されることになります。
※4 実効税率:法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税を合計した税率
3.社会保険料加入義務と資金の融通性
不動産投資の法人化で役員報酬を設定すると、社会保険への加入が必須になり負担が増えます。金額によっては、役員個人の所得税が発生する可能性があるので、金額設定にも注意が必要です。
また、個人の時とは違い、役員は会社の資産移動を自由にできないため、資産利用の柔軟性が低下するでしょう。
法人化のメリット、デメリットについては、「副業の法人化ガイド|メリット・デメリットを徹底解説」の記事でも詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
法人化すべきタイミングはいつ?損益分岐点の判断とは
不動産投資の法人化すべきタイミングとは、ひと言でいうと「所得税額が法人税額を超えるとき」です。ここでは、法人化の検討が必要になる具体的な所得額や、シチュエーションについて説明します。
サラリーマン大家は「課税所得900万円」が目安
給与所得と不動産所得の合計が900万円を超える場合は、法人化を検討するタイミングといえます。不動産所得は他の所得と合算されて所得税額を算出しますが、900万円を超えると大幅に税率が跳ね上がるので、サラリーマン事業者が節税を考えるには重要な分岐点になります。
専業大家は「不動産所得330万円」から検討
給与所得がなく、不動産所得だけの場合は330万円が目安となります。330万円を超えると個人の所得税率が、法人税の実効税率を上回り始めるため、法人化が有利になる可能性が高まるでしょう。
事業規模拡大とデッドクロスのタイミングで判断する
不動産の簿価が減少して減価償却できなくなり、帳簿上の黒字が増えるデッドクロスの直前も、法人化の最適なタイミングです。
デッドクロスとは、不動産の減価償却費(支払いはないが費用計上する)より、ローンの元金返済額(実際にお金が出ていく)の方が大きくなる状態のことです。帳簿上は利益が出るのに、納税や支払いで手元にお金が残りにくくなることから、法人化検討の好機となります。
また、今後も物件を増やし、事業規模拡大を考えている場合も「融資が受けやすくなる」「節税効果が高まる」などのメリットから、所得額を考慮して法人化を検討するのがよいでしょう。
「所有方式」と「管理方式」の選び方とコスト
不動産事業には、法人が直接所有・経営管理を行う「所有方式」と、個人が所有している不動産を管理会社へ委託し、賃料の一部を管理料として支払う「管理方式」があります。ここでは、それぞれの特徴や選び方などを紹介します。
新規物件なら「不動産所有方式」一択
新たに物件を購入する場合は、法人化して、家賃収入の全額が法人に入る「所有方式」がおすすめです。家賃収入の100%が法人に入るので、個人との所得が分散でき、節税効果が最も高くなります。
しかし、法人化は、相続税対策として利用されることも多く、メリットが多い反面、税務が複雑になりがちです。専門家への相談や費用が発生する可能性が高くなるので、よく理解して検討するようにしましょう。
既存物件には「管理委託・サブリース方式」が現実的
既存物件については、管理会社に業務を委託する「管理委託」か、管理会社に物件を一括で借り上げてもらう「サブリース」が、代表的な管理方法です。
管理委託とは、不動産管理会社を設立し、管理料(賃料の5%程度)のみを法人に移すことで税負担を抑える方法です。既存物件の名義変更はコストが高過ぎるため、最も簡単で一般的な方式ですが、ほとんどが個人の収入となってしまうので、節税効果はあまり高くありません。
サブリースは、管理委託同様、管理する法人を設立して一括で借り上げてもらう方法です。10~15%の転貸賃料が法人に入り、管理委託よりも多くの所得を法人に移せますが、手数料を相場よりも高く設定すると(=法人への所得移転が増える)、税務署からの指摘を受ける可能性があるため注意しましょう。
また、管理委託とサブリースの違いは以下のとおりです。
| 管理委託 | サブリース | |
|---|---|---|
| 管理手数料 | 必要 5%程度 | 必要 ※5 |
| 家賃保証 | 空室の保証なし | 空室があっても保証あり |
| 家賃の金額 | 適正価格 | 低い |
※5 賃借人から受け取る転貸賃料-不動産所有者への保証賃料(転貸賃料の85~90%) の手数料が発生する
個人所有物件を法人に移す際の「ダブルコスト」問題
不動産を個人所有から法人へ名義を変更すると、不動産取得税や登録免許税が改めて課税され、物件価格の5~10%程度の費用が発生します。
【不動産売買の場合】
- 登録免許税:「土地」「家屋」ともに 評価額×各2%(※6)
- 不動産取得税:土地・住宅 評価額×3%(2027年3月31日までの軽減税率)
店舗・事務所など 評価額の4%
※6 諸条件により軽減措置の税率あり
不動産投資法人の設立手順
法人化が決まったら、法人設立の準備をしましょう。ここでは、基本的な流れを説明します。
Step1. 基本事項を決定する
まず、会社の形態や資本金など、基本事項を決定しましょう。現在の日本では、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4つの会社形態があります。一般的なのは株式会社、合同会社ですが、それぞれの特徴を踏まえて、自身の事業に合った形態を選ぶのが重要です。
また、資本金は100万円以上がおすすめです。融資を受ける際には、資本金額が大きく影響するので、融資の際に不利にならないようにするのがよいでしょう。
事業年度(決算月)の決定も、重要な項目です。自社の繁忙期を避けるのはもちろんのこと、納税の期日となる決算日の2ヶ月後の資金繰りの考慮や、手厚いサービスを受けるために税理士の繁忙期を避けるのが賢明といえます。
Step2. 定款の作成と認証手続き
次に、定款(会社の規則)を作成して公証役場で認証を受けます。この認証は、作成された定款を公証人が認めることで、法的効力を発生させるための手続きです。認証を受けた定款は適切であることが証明され、会社の信頼度や透明性を表すものになります。
定款に記載すべき事項は、以下のとおりです。
- 商号(会社名)
- 本店所在地
- 事業の目的
- 資本金額(出資金額)
- 発起人の氏名、住所
事業目的は、不動産の所有や賃貸、管理など、融資や将来の事業展開を見越して決定、記載するのが大切です。また、認証手続きには定款認証料がかかりますが、書面ではなく電子定款にすると、印紙代は不要になるのでおすすめです。
Step3. 法人口座開設と登記申請
定款の認証が済んだら、資本金の準備です。この時点では法人口座が開設できないので、代表者の個人口座に入金し、登記申請に必要な「入金口座通帳の表紙と1ページ目」「入金が確認できるページ」をコピーしておきます。
必要書類が揃ったら、法務局へ申請しましょう。この日が法的に「会社設立日」となるので、特定の日を設立日にしたい場合は留意が必要です。
Step4. 税務署・自治体などへの届出提出
登記が完了したら、税務署や自治体などへ「法人設立届出書」や「青色申告の承認申請書」ほかの届出を提出します。各届出には提出期限があるので、法人・青色ならではの法人初年度のメリットを消滅させないよう、きちんと期限内に提出するようにしましょう。
登記申請に必要な書類、届出の種類や期限など、法人化の詳細については、「法人成りの手続き・書類・費用を解説|個人事業主から会社設立までのロードマップ」の記事で、解説しているので、ぜひ参考にしてください。
不動産投資の法人化を検討の際は税理士への相談をおすすめします
個人から法人化を検討する方は多いでしょう。なかでも「不動産投資を法人化」するのは、目的が一般事業と異なる場合が多いため、特殊な条件を考慮して検討、決定する必要があります。
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