株式会社と有限会社の違いとは?それぞれのメリット・デメリットを詳しく解説

現存する有限会社は、2006年の法改正以前の「有限会社」とは規定や扱いが異なります。戦前の1938年から存在していた歴史ある有限会社は、株式会社よりも簡易な手続きで法人設立できることで、中小企業を支援するために導入された企業形態です。
この記事では、法改正によって現在の形態になるまでの変遷や、株式会社との違いを紹介します。
有限会社であり続けるかどうか悩んでいる方や、これから法人設立するにあたり、企業形態について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
2006年以降、有限会社は新たに設立できなくなった
2006年5月の会社法改正により、有限会社の新規設立はできなくなりました。ここでは、その理由と経緯について説明します。
なぜ有限会社制度は廃止されたのか?
有限会社の新規設立ができなくなった理由は、株式会社の設立要件が以下のように緩和されたためです。
株式会社の設立要件
改正前
・資本金1,000万円以上
・取締役3名以上・監査役1名以上
改正後
・資本金1円以上
・発起人(株主・取締役)1名以上
上記のように、小規模でも株式会社として事業を始めることができるようになり、有限会社の形態を維持する存在意義が薄れたため、制度が廃止されることになりました。※1
※1 2006年以前の有限会社の設立要件は、資本金300万円以上、出資者(社員)50人以下、取締役1名以上
現存する「有限会社」とは?
前項の会社法改正により、有限会社は通常の「株式会社」に形態変更するか、有限会社の特性を一部残した「特例有限会社」として存続することになりました。
現存する有限会社=特例有限会社は、名称が「有限会社」であっても、会社法上、株式会社の一種として扱われます。株式会社のように取締役会の設置ができないといった制限もありますが、株式の発行が可能で、メリットとなり得るいくつかの特例も認められています。
株式会社と特例有限会社の違い
会社法上、株式会社に属する特例有限会社ですが、一般的な「株式会社」とはいくつかの違いがあります。主な違いを以下で解説していきましょう。
最低資本金
旧制度では、株式会社設立時の資本金は1,000万円以上、有限会社は300万円以上とされており、大きな差がありました。
法改正後、株式会社は資本金1円以上で設立可能となったため、有限会社は特例有限会社に名称を変えることになりますが、現存する有限会社の資本金はそのまま維持されています。
役員の任期(登記更新の手間とコスト)
株式会社には最長10年の役員任期があるため、任期満了ごとに変更登記の手間と費用が発生します。一方、特例有限会社は会社法上「株式会社」であっても、有限会社時代同様、役員任期がないため、株式会社のような手間や費用の負担は不要です。
決算公告の義務(情報公開と費用)
株式会社には毎年の決算公告(※2)が義務付けられていますが、特例有限会社にはこの義務はありません。このことが、官報や新聞への掲載、電子公告(インターネット)などの費用や手間の削減、財務情報の非公開といったメリットにもつながっています。
※2 企業の事業年度終了後に事業成果や財務情報を一般に公開すること
株式の譲渡制限(経営権の安定性)
特例有限会社は、会社法により、株式の譲渡制限がある「譲渡制限株式会社」と定義づけられています。譲渡の際には、原則として株主総会、または代表取締役の承認が必要で、たとえ定款にその旨の記載がなくても、「株式の譲渡は会社の承認が必要である」という規定が適用されることになります。
また、仮に「譲渡制限廃止」という記載を定款に設けたとしても、効力は持たないので注意が必要です。
資金調達の方法と社会的信用度
株式会社は公開株式発行が可能であることや、知名度・社会的信用の高さから多様な資金調達が可能です。
一方、株式の譲渡制限のある特例有限会社は、2006年の法改正で株式発行ができるようになりましたが、公開はできないことになっており、大量の資金の調達は難しい傾向にあります。
メリット・デメリットから見る会社形態の選び方
ここでは、株式会社、特例有限会社のそれぞれのメリット・デメリットを紹介します。特例有限会社であり続けるか、株式会社として形態変更するかどうかの検討材料として参考にしてください。
株式会社を選択するメリット・デメリット
国内法人のほとんどを占める「株式会社」を選ぶメリットとデメリットとは?ここでは、代表的な特徴を紹介します。
メリット:高い信用力と多様な資金調達
株式会社の最大のメリットは、社会的信用の高さといえるでしょう。役員に任期があること、決算公告による経営の透明さや知名度の高さなどが、経営安定のイメージや信用につながっています。
また、株式発行により、大規模な資金調達が可能であるのも魅力の一つです。企業の成長や大幅な事業拡大を目指す場合は、株式会社に形態変更するのが適しているといえます。
デメリット:設立・運営コストと事務的負担
株式会社は、継続的に発生するコストと事務手続きの煩雑さが、大きな負担となりやすいでしょう。設立時(形態変更時)の費用や手間、毎年の決算公告の掲載料など、赤字であっても、運営していくうえで多くの作業をこなしてやりくりしていく必要があります。
特例有限会社であり続けるメリット・デメリット
あえて「有限会社」であり続けるメリット・デメリットとは?ここでは、特例有限会社の代表的な特徴を紹介します。
メリット:経営の自由度とコスト削減
特例有限会社の最も有利な点は、株式会社に比べて経費や手間がかからないことです。役員任期がないため、登記の更新が不要であることや、決算公告義務がないことなどで、手間が省けるのはもちろんのこと、コストを抑えやすいといえるでしょう。
また、現在は新たに有限会社を設立することはできないため、「特例有限会社=歴史のある安定した企業」といった印象を持たれやすくなります。
なお、株式会社は、通常、最後の役員の変更登記から12年経過すると「みなし解散(※3)」扱いをされますが、特例有限会社には役員任期がないため、解散とみなされることはありません。
上記のことから、現在の経営体制や将来の事業計画において、現状を維持して着実に事業を継続していきたい場合は、特例有限会社のままでいることが適しているといえるでしょう。
※3 みなし解散とは、長期間登記をしていない休眠会社などに対して、法務局が会社を解散させる手続き
デメリット:信用度の懸念と資金調達の制約
特例有限会社は決算公告の義務がないため、経営の透明性が低いと捉えられがちです。また、株式の譲渡制限で株式公開ができないので、資金調達の手段が限定されます。
不透明な経営や認知度が低くなりがちな点から、株式会社と比較すると社会的信用度は低いといえます。
また、吸収合併により存続できないことのほか(※4)、役員任期がないことからワンマン経営になるリスクが高いことも、懸念材料とされることが多いでしょう。
※4 有限会社を存続会社として吸収合併を行う場合は、特例有限会社から株式会社に移行する必要がある
これから会社を設立するなら?現代の選択肢
ここでは、これから会社を設立する方に向けて、現在の企業形態のそれぞれの特徴について解説します。有限会社が新規設立できない今、小規模事業の経営を考えている方はぜひ参考にしてください。
株式会社と「合同会社」、どちらを選ぶべきか?
現在は新規設立できない有限会社に代わり、「合同会社」が現代の小規模ビジネスの企業形態の代表になっています。主な違いは下記のとおりです。
| 株式会社 | 合同会社 | |
|---|---|---|
| 代表者 | 代表取締役 | 各社員(代表社員を定めることも可能) |
| 資本金 | 1円以上 | 1円以上 |
| 意思決定 | 株主総会 | 社員総会 |
| 役員任期 | 通常2年・最長10年 | 任期なし |
| 決算公告 | 必要 | 不要 |
| 利益配分 | 出資割合に応じて | 定款で自由に規定できる |
| 設立費用 | 約22万円~ | 約6万円~ |
| 責任の範囲 | 有限責任(※5) | 有限責任 |
| その他 | 株式発行などで幅広い資金調達が可能 | 株式発行はできない |
※5 有限責任:取引先の倒産などにより負債が発生した際に、出資者が負う責任が出資額を限度とした範囲内に限定されること
合同会社は、上記のように、初期費用の低さや経営の自由度が高いことが、小規模ビジネスに向いているといわれる理由です。
法人設立に関しては、「副業の法人化ガイド|メリット・デメリットを徹底解説」や、「法人成りの手続き・書類・費用を解説|個人事業主から会社設立までのロードマップ」の記事でも、詳しく説明しているので参考にしてください。
その他の会社形態:合名会社と合資会社とは
現在、企業の形態は4種類あり、株式会社、合同会社のほか、「合名会社」「合資会社」があります。主な条件や違いは以下のとおりです。
| 合名会社 | 合資会社 | |
|---|---|---|
| 出資者 | 1名以上(社員)※6 | 有限・無限責任社員 各1名以上 |
| 資本金 | 規定なし | 規定なし |
| 役員任期 | 任期なし | 任期なし |
| 決算公告 | 不要 | 不要 |
| 利益配分 | 定款で自由に規定できる | 定款で自由に規定できる |
| 責任の範囲 | 無限責任(※7) | 有限責任・無限責任 |
※6 ここでいう「社員」とは、会社法上の表現で、一般的な従業員とは異なる
※7 無限責任:取引先の倒産などにより負債が発生した際に、出資額に関係なく無制限に責任を負うこと
上記のように、条件的に合同会社に似た合名会社、合資会社ですが、責任の範囲が無制限であることから、現在ではあまり選択されない企業形態です。
事業規模や目的に合わせた最適な会社形態の選び方
会社形態の選択は、現在の経営状態や将来の事業計画を元に、慎重に検討することが大切です。特に、一旦、特例有限会社から株式会社に移行した場合は元に戻れないため、中長期的な視点で考える必要があります。
検討する際は、主に、下記の観点から検討するのがよいでしょう。
- 設立費用
- 資金調達のしやすさ、必要性
- 経営の柔軟性
- 出資者の責任範囲
- 社会的信用、知名度
どの会社形態にも、メリット・デメリットがあるので、自身のビジネスの最優先事項を決定するのが重要です。それぞれのメリットを最大限に活用し、デメリットに対しては対策案を考えることで、今後の事業成長に活かされていくでしょう。
会社設立に関するお悩みは二見達彦税理士事務所にご相談ください
会社を設立するにあたって、企業形態の決定は今後の事業に大きく影響します。まずは、現在の状態を把握し、将来の事業計画をしっかりと練ることが大切です。そこから、自身のビジネスに合う企業形態を考えるようにするとよいでしょう。
二見達彦税理士事務所は、会社設立や事業計画の策定、創業融資など、これから法人設立される方に必要なすべてのサポートが可能です。あなたの事業の「ベスト」を考え、的確なアドバイスをすることで、確実な一歩を踏み出すお手伝いをいたします。まずは、お気軽に無料相談をご利用ください。
