資本金を増やさない理由とは?増資のメリット・デメリットを解説

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資本金とは、企業の財務基盤を示す重要な要素であり、財政状態や信用度を証明するものですが、各企業の「適正資本金」はさまざまです。では、理想的な資本金とはいったいいくらなのでしょうか。

この記事では、「最適な資本金とは?」「増資すべき?」といった疑問や悩みをお持ちのあなたへ、戦略的な資本金の決め方や増資のメリット、デメリットなどを解説します。

目次

資本金は「多ければ良い」という誤解

「資本金は多ければ多いほど良い?」答えは「NO」です。あえて増やさない戦略的な選択肢もあるので、以下で解説していきましょう。

会社の「体力」を示す資本金の役割とは

資本金とは返済不要の自己資本であり、企業の財務的な体力や信頼性を示す基礎となります。資本金が取引の判断材料にされたり、融資にも影響する可能性もあります。しかし、多ければ良いというものではなく、将来の事業展開や経営戦略を踏まえたうえで、適切な資本金を設定するのが重要です。

資本金を増やさない5つの現実的な理由

ここでは、戦略的に資本金を増やさない理由を紹介します。主な5つの理由は下記のとおりです。

税金の負担が大幅に増加する

資本金がある一定の額を超えると、消費税や法人税、法人住民税均等割などの税負担が増えます。具体的な理由と条件は下記のとおりです。

  • 資本金が1億円以上の場合:中小法人対象の法人税の軽減税率が適用されなくなる
    参考:国税庁|法人税の税率
  • 資本金1,000万円以上の場合:設立1年目から消費税課税事業になる
    参考:国税庁|納税義務の免除
  • 赤字でも納付義務がある法人住民税均等割額は「資本金」「従業員数」で決まる(多ければ多いほど負担増)
    参考:総務省|法人住民税

中小企業向けの優遇措置が受けられなくなる

資本金が1億円を超えた場合、税負担増加のほか、次の優遇措置が受けられなくなるというデメリットがあります。

欠損金の全額繰越、繰戻

資本金1億円以下の中小企業には、繰越欠損金の100%控除が認められていますが、大企業には50%の上限額が定められています。(平成30年4月1日以降の開始事業年度において)

また、同様に、欠損金額が生じた場合に前年の法人税額の還付を請求することができる繰戻し還付も、資本金が1億円を超えると適用外となります。これらの措置は、中小企業の事業拡大や経営の安定化の一助となるためのものです。

参考:国税庁|青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
参考:国税庁|欠損金の繰戻しによる還付

交際費の損金算入

中小企業には、800万円までの交際費を全額損金算入か、飲食費の50%相当額の損金算入が認められていますが(多くが前者を選択)、資本金が1億円を超えると飲食費のみ50%損金算入、それ以外の交際費は全額損金不算入となります。

交際費の内容飲食費飲食費以外
資本金1億円以下の場合①飲食費以外含め800万円まで全額損金算入
もしくは
②50%損金算入
①飲食費含め800万円まで全額損金算入
②の場合は全額損金不算入
資本金1億円超の場合(100億円以下)50%損金算入全額損金不算入

参考:国税庁|交際費等の損金不算入制度の見直し

少額減価償却資産の特例

取得価額30万円未満の資産を購入した場合に全額損金算入できる、「少額減価償却資産の特例」にも資本金がかかわってきます。この制度も、中小企業に対しての優遇措置であるため、資本金が1億円を超える法人は対象外です。

参考:国税庁|中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

増資の手続きに費用と手間がかかる

資本金を増やさない方がいい理由の一つに、増資すると株主総会での決議や法務局での手続きなど、手間がかかることが挙げられます。また、登録免許税や司法書士への報酬などのコストも発生し、数万円から数十万円程度必要となるので、事業に影響する場合もあるでしょう。

経営権が脅かされるリスクがある(持株比率の低下)

増資は、既存の持株比率が低下(希薄化)する可能性が高まります。たとえば、特定の第三者を対象に新株を発行した場合(第三者割当増資)が該当します。企業の支配権の比率変動が今後の経営方針に大きな影響を与えるため、創業者が経営権を維持したい場合には注意が必要です。

資本金額に応じた事務的・法的な義務が増える

企業規模の定義は、次の3つの法律で定義されており、規模によっては複数の義務が発生することになります。

【企業規模が定義される法律】

  • 会社法
  • 中小企業基本法
  • 法人税法

会社法では、最終事業年度に係る貸借対照表において資本金5億円以上の企業を「大会社」と定義づけています。増資で大会社になった場合は、会計監査人や取締役会の設置など、追加義務の遵守に伴う管理コスト増加が見込まれるでしょう。

一方で、資本金を増やすことの4つのメリット

ここでは、経営戦略の一環として資本金を増やすことの、主要な4つのメリットについて説明します。

社会的信用力が格段に向上し、取引が有利になる

資本金を増やすと、事業拡大や資金確保につながりやすいといえます。資本金の多さが企業の体力を示す指標となり、社会的に信用力が高まることで、大企業との取引や新規契約において有利に働くためです。

また、資金を研究開発や人件費に充てることで企業の競争力が強化され、さらなる成長が期待できるでしょう。

財務基盤が安定し、金融機関からの融資が受けやすくなる

自己資本が厚いと、金融機関の融資審査が有利になりやすくなります。増資することで債務超過(保有している資産より負債の方が多い状態)のリスクが減り、融資の評価基準となる自己資本比率の高さで、企業の安全性や安定性を金融機関にアピールすることができるからです。

返済不要の自己資本で、経営の自由度が高まる

同じ資金の調達でも、金融機関からの融osiとは違い、増資には利息がなく返済義務もありません。そのため、長期的な視点での事業投資に活用でき、経営の自由度が増すといえるでしょう。

事業拡大や優秀な人材の確保がしやすくなる

資本金が増えると事業拡大や発展の加速が見込めますが、同時に安定した人材の雇用も可能になります。財務基盤の安定性が強みとなり、手厚い待遇で優秀な人材確保につながるでしょう。

資本金の額で変わる3つの基準点

資本金には、1,000万円・1億円・5億円の3つの重要な基準点があります。具体的な理由と判断ポイントを以下で紹介します。

1,000万円:消費税の納税義務が発生

資本金1,000万円の判断ポイントは、「消費税課税事業者になるかどうか」です。

資本金1,000万円未満の場合、諸条件にもよりますが、通常設立2期目までは消費税が免除されます。1,000万円以上になると、設立1期目から消費税課税事業者になるので、資本金を決定する判断材料の一つとするとよいでしょう。

1億円:法人税率の上昇と中小企業特例の喪失

資本金1億円の判断ポイントは、「法人税率の軽減税率適用」と「中小企業向けの優遇措置の適用」です。

税務上は1億円以下が中小法人とされています。前述したように、資本金が1億円を超え、法人税率の軽減税率が適用されないと、R4年度以降の普通法人に対して課される法人税率は、15.0%から23.2%にもなり、繰越欠損金の全額控除や少額減価償却資産の特例などの適用が受けられなくなります。

参考:国税庁|措置法上の中小法人及び中小企業者

5億円:会社法上の「大会社」としての追加義務

資本金5億円の判断ポイントは、「大会社となり追加で課される義務」です。

前述したように、資本金が5億円を超えると会社法において「大会社」と認定され、追加の義務が発生します。具体的な義務は次のとおりで、管理コストと手間が大幅に増えることになるでしょう。

  • 会計監査人、監査役会の設置義務(内、半数は社外監査役である必要がある)
  • 損益計算書の公告義務
  • 連結計算書類の作成義務 など

自社に最適な資本金を決めるための判断基準

自社に適した資本金を知るには、しっかりと事業計画を立てるのが重要です。ここでは、その理由と重要な点を説明します。

まずは事業に必要な許認可・融資の要件を確認する

2006年の法改正で、資本金1円から会社設立が可能になりましたが、業種によっては許認可を受けるために最低資本金額が設定されているものもあります。

たとえば、一般建設業は500万円、一般労働者派遣事業では2,000万円、また第一種旅行業は3,000万円(※1)が最低ラインとなるので、自社が特定の業種であるかを事前に調べるようにしましょう。

また、創業融資を利用する場合、資本金は大きな影響力を持ちます。かつて、日本政策金融公庫で「借入希望額の1割以上」の資本金が必要であるという申し込み条件がありましたが、2024年に廃止されており、現在は申し込みに資本金の制限はありません。

しかし、実質的に資本金は事業の真剣さや、返済不能に陥るリスクのものさしとして重要視されているのが現実です。借入先にもよりますが、一般的には、最低でも借入希望額の3割程度の資本金が必要といわれています。

※1 旅行業は資本金ではなく「基準資産額」となる

運転資金の3〜6ヶ月分を初期資本金の目安とする

資本金は、初期費用に加えて「事業を開始して3ヶ月~6ヶ月利益がなくても継続できる」程度の額を目安として用意するようにしましょう。そのためには、取引先の信用度や取引条件などを、事前に調査しておく必要があります。

どの事業も、軌道に乗るまでは時間がかかることが多いので、運転資金を資本金として保持するのが安定経営につながる秘訣です。

将来の事業計画(M&A、IPOなど)と照らし合わせて判断する

資本金を、将来の事業計画と照らし合わせて考えるのも重要です。たとえば、M&A(※2)やIPO(※3)を目指すのか、スモールビジネスとして継続するのかによっても最適な資本金額は違ってくるので、まずはじめに将来のビジョンを描いたうえで資本金を決定するのが重要です。

資本金の決定については、法人化の資本金はいくらが正解?金額を決める5つの視点を解説の記事でも紹介しているので、ご一読ください。

※2 M&A【Mergers & Acquisitionsの略】:企業の合併、買収(企業・事業の一部、または全部の移転を伴う取引)

※3 IPO【Initial Public Offeringの略】:未上場企業を証券取引場に上場させ、市場を通じて新規に株式を発行することにより、不特定多数の投資家から資金を調達する方法

迷ったら専門家(税理士など)に相談する

ここまで、資本金についての基本的な説明や金額の決め方のポイントを紹介してきましたが、資本政策は税務・法務が複雑に絡み合っているのがおわかりいただけたでしょう。

資本金の額は、今後の事業の展開に大きく関わってきます。将来を見据えた「自社に適した資本金」の最終的な判断は、税務・法務の知識を有する専門家に相談するのが賢明といえます。

資本金に関するお悩みは二見達彦税理士事務所にご相談ください

資本金の決定は、将来の事業計画が要となります。そこから多角的に「最適な資本金」を探っていくのが大切ですが、実際に、自身で最終的な判断をするのは難易度が高いと感じる方がほとんどでしょう。

二見達彦税理士事務所は、特定支援機関としての強みを活かした事業計画策定から増資のアドバイスまで、あらゆるサポートが可能です。不安に寄り添い、あなたに合わせたプランをご提案、そして伴走いたします。初回相談は無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。

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