月次決算とは?目的から流れ、効率化のコツまで解説

変化の激しい現代において、年に一度の決算を待つだけでは、経営判断が遅れる可能性があります。そこで重要となるのが、毎月の業績をタイムリーに把握する「月次決算」です。しかし月次決算について、詳細な内容を理解している人は少ないのではないでしょうか?
そこで本記事では、月次決算の目的から具体的な進め方、効率化のコツまで解説します。適切な経営判断を行いたい場合には、体制づくりの第一歩として、ぜひ参考にしてください。
月次決算とは?
月次決算とは、1ヶ月ごとに行う決算手続きのことです。月末などの締め日を基準とし、一ヶ月間の会計データを集計・整理します。そのうえで、「貸借対照表」や「損益計算書」といった財務諸表を作成します。
月次決算をすることで、自社の財政状態(資産や負債の状況)と経営成績(売上や利益の状況)をタイムリーに把握することが可能です。
法的義務はないが、なぜ重要なのか?
年に一度の年次決算は、法人税法などの法律によって、すべての企業に義務付けられています。一方で、月次決算には法的な義務はありません。あくまで、企業が任意で実施します。
では、なぜ多くの企業が、時間と労力をかけて月次決算を導入するのでしょうか。最大の理由は、経営陣が迅速に意思決定を下すための「精度の高い判断材料」となるからです。問題点(例:売上の急な減少/コストが想定外に増加)があった場合にも、早期に発見できることから、すぐに適切な対策を講じられるでしょう。また、金融機関から融資を受ける際にも、最新の業績を迅速に提示できるため、信頼性の向上につながります。
経営の羅針盤となる月次決算の3つの主要な目的
月次決算では、単に過去の数字をまとめるだけではありません。船にとっての羅針盤のように、会社の現在地を示し、未来へ進むべき方向を照らしてくれます。また月次決算には、3つの主要な目的があります。
リアルタイムな業績把握と経営状況の可視化
月次決算を行った場合、毎月において、損益計算書や貸借対照表を作成します。そのため、「先月はどれくらい儲かったのか」「資産は増えたのか・減ったのか」といった財政状態と経営成績をリアルタイムで把握することが可能です。また、正確なデータをもとにするため、客観的な事実にもとづいた判断を下しやすくなります。事業ごとの損益状況や資金繰りの状態も明確になるため、次の一手も打ちやすくなるでしょう。
迅速な意思決定と軌道修正の実現
月次決算を行い、毎月の計画と実績の差を比較すれば、「特定の商品の売上が急に落ち込んだ」「想定以上に経費が増えている」といった問題の早期発見につながります。問題が小さいうちに原因を究明し、対策を講じられるため、致命的な損失を未然に防ぎやすいでしょう。経営におけるPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを月単位で高速に回すことから、事業計画の軌道修正をスムーズに行えます。
年次決算の負担軽減と業務の平準化
月次決算の目的は、経営管理の側面だけではありません。経理部門の「業務効率化」にも貢献します。年に一度しか決算を行わない場合、期末に1年分の会計処理が集中することから、経理担当者の負担は大きくなりがちです。月次決算を導入すれば、年次決算の作業を12ヶ月に分散させられます。期末の繁忙を緩和することにつながり、担当者の業務負荷を平準化できるでしょう。また毎月会計データを締めることで、記帳ミスや計上漏れをその都度修正できるため、年次決算の正確性も高められます。
月次決算の具体的な流れ
正確でスピーディーな月次決算を行うには、決められた手順に沿って作業を進めることが大切です。一見複雑に見えますが、各ステップの目的を理解すれば、適切に進められるでしょう。ここでは、月次決算の一般的なプロセスを8つのステップに分けたうえで、具体的に解説していきます。
ステップ1:現金・預金残高の確認
まずは、会社の現金と預金の残高を確認しましょう。具体的には、経理担当者が管理している帳簿上の残高と、実際の現金有高や銀行の預金通帳(または入出金明細)の残高を照合します。両者の金額が一致していれば問題ありません。差異がある場合には、記帳漏れや入力ミスなどの原因を特定したうえで、適切な内容に修正します。本ステップでの数値が月次決算全体の基礎となるため、丁寧な確認が欠かせません。
ステップ2:月次棚卸の実施と在庫評価
つづいて、商品や製品・原材料といった在庫を持つ企業では、棚卸を行います。在庫の数量を確定させることで、当月の売上に対応する「売上原価」を正確に計算できるでしょう。もし正確な売上原価が分からなければ、正しい利益(売上総利益)を把握できません。数えた在庫は、仕入れた時の単価などを用いて金額を計算し、棚卸資産として貸借対照表に計上します。
ステップ3:仮払金・仮受金など仮勘定の整理
日々の取引では、内容や金額が確定していないため、一時的に「仮払金」や「仮受金」といった仮の勘定科目で処理することがあります。仮の勘定科目の例として、出張前に渡す旅費の概算額(仮払金)や、内容が不明な入金(仮受金)などが挙げられます。月次決算では、仮勘定を月末までにすべて精査し、本来の勘定科目(旅費交通費や雑収入など)に振り替える作業が必要です。
ステップ4:未払費用・未収収益など経過勘定の計上
会計には、取引が発生した時点で費用や収益を認識する「発生主義」という原則があります。原則にもとづき、当月にサービスを受けて支払いが翌月以降になる費用(例:月末締めの給与)や、当月にサービスを提供したものの入金されていない収益などを、当月の損益として正しく反映させます。この処理を行うことで、その月に発生した損益を正確に把握できるのです。
ステップ5:減価償却費や各種引当金の計上
高額な固定資産(例:建物・機械・車両)は、一般的に減価償却を行います。減価償却では、購入時の金額を、使用可能な期間にわたって分割して計上します。月次決算では、減価償却費の見積額を12で割った金額を、毎月において計上します。同様に、将来支払う可能性が高い引当金(例:賞与/退職金)も、年間の見積額から月割りで計上する流れです。
▼減価償却の仕組みや節税効果について、詳しくはこちらの記事で解説しています。
減価償却は節税につながる?活用のメリットや注意点を解説
ステップ6:売掛金・買掛金の残高確認
当ステップでは、得意先ごとや仕入先ごとの売掛金・買掛金の残高が、自社の帳簿と一致しているかを確認します。売掛金と買掛金をチェックすることで、請求漏れ・回収の遅延・支払い漏れや二重払いといった問題がないかをチェックできます。特に、売掛金の回収が遅れると黒字倒産のリスクも高めてしまいます。残高を定期的に確認し、滞留している債権がないかをチェックすることは、安定した経営に不可欠です。
ステップ7:月次試算表の作成
ここまでのステップがすべて完了したら、すべての勘定科目の残高を集計した「月次試算表」を作成します。試算表は、会計のルールである「借方」と「貸方」の合計金額が必ず一致するようにできています。そのため、試算表を作成し、借方合計と貸方合計が一致することを確認すれば、転記ミスなどの計算上の誤りがないかを検証できるでしょう。この試算表が、次のステップである経営報告資料のベースとなります。
ステップ8:経営層への月次業績報告
月次決算の最終ゴールは、正確な数字を「経営の意思決定に役立つ情報」に変換して報告することです。ステップ7で作成した試算表をもとに、グラフなどを用いて分かりやすい経営報告書を作成します。 ここで重要なのは、予算や前年実績と比較して「なぜ計画との差が生まれたのか」「どこに手を打つべきか」といった分析と考察を加えることです。この作業のおかげで、経営陣は会社の現状を理解しやすくなります。軌道修正や新たな投資といった、次のアクションも検討できるでしょう。
月次決算データを経営改善に活かす方法
月次決算は、作成して報告するだけでは意味がありません。経営の実態を読み解き、次のアクションにつなげることが重要です。ここでは、月次決算データを経営改善ツールに変えるための「3つの具体的な活用方法」について解説します。
KPIと連動させた予実分析で問題点を特定する
月次決算データを活用する基本は、事前に立てた「予算」と、実際に出た「実績」を比べることです。これを一般的に、予実分析と呼びます。 しかし、単に「売上が目標に届かなかった」と結果だけを確認しても、具体的な対策は立てられません。そこで重要になるのが、KPI(重要業績評価指標)との連動です。 たとえば、売上という結果を「顧客数 × 顧客単価」といった要素に分けて分析します。すると、売上が未達であった根本的な原因について、「新規顧客が足りない」や「一人あたりの購入額が低い」などと、詳細な内容を特定できます。
資金繰り表と連携し、将来のキャッシュフローを予測・管理する
損益計算書の書面上で利益が出ていても、手元の現金が不足する「黒字倒産」のリスクは常に存在します。なぜなら、利益と現金の動きは、必ずしも一致しないからです。そこで、月次決算データと「資金繰り表」を連携させることが欠かせません。月次決算で確定した預金残高や売掛金・買掛金のデータをもとに、資金繰り表を毎月更新することで、数ヶ月先の現金の動きを高い精度で予測できます。これにより、資金ショートのリスクを事前に察知しやすくなり、金融機関への融資相談や支払いサイトの交渉といった手を早めに打ちやすくなります。
部門別・事業別の損益分析で成長ドライバーを見極める
会社全体の損益だけを見ている場合、経営の実態を見誤る可能性があります。会社全体では黒字でも、ある事業の利益が他の事業の赤字を補填しているケースも少なくないからです。そこで、月次決算を部門別や事業別に作成・分析することが大切です。部門や事業別に対応することで、どの事業が収益の柱となっており、どの事業が不採算であるかが明確になります。収益性の高い事業には追加投資を行い、不採算事業は改善策を講じる、あるいは撤退を検討するといった「選択と集中」の判断も可能になるでしょう。
月次会計業務に関するお悩みは二見達彦税理士事務所にご相談ください
月次決算は、迅速な経営判断を下し、企業の成長を加速させるために不可欠です。しかし、「自社だけで正確な体制を構築できるか不安だ」「作成したデータを、どのように経営改善に活かせばいいか分からない」といったお悩みを持つ経営者様も少なくありません。 二見達彦税理士事務所は、月次決算の導入支援から効率的な運用、そして経営改善につながるデータ分析までトータルでサポートします。月次会計業務に関するお悩みがある場合には、お気軽にご相談ください。
