減価償却は節税につながる?活用のメリットや注意点を解説

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「減価償却で税金対策ができる」と、耳にしたことはないでしょうか。減価償却は税負担を軽減しますが、単に「税金が安くなる」というものではありません。仕組みを理解し、適切に活用することで、初めて効果を得られます。

本記事では、減価償却の仕組みから具体的な節税対策まで解説します。減価償却を賢く活用したい場合には、ぜひ参考にしてください。

目次

減価償却とは?

まずは、減価償却の基本について解説します。ここでは、減価償却の仕組みや、法人と個人の違いを見ていきましょう。

減価償却の仕組み

減価償却では、固定資産の購入費用を、資産が使える期間(耐用年数)に分けて、毎年少しずつ経費として計上します。たとえば300万円の機械を購入し、耐用年数が10年だとしましょう。その場合、毎年30万円ずつを経費として処理します。

また減価償却の処理方法は、以下の2種類です。

  • 定額法:毎年一定額を経費として計上する
  • 定率法:初年度に多くの経費を計上する

一定の制約がありますが、どちらの方法を選ぶかは自由です。経営方針や資金計画に応じて決めることが多いでしょう。

【法人向け】減価償却は任意?義務?

法人の場合、減価償却は任意です。実施する場合も、企業の判断で計上額を決められます。ただし、計上できる金額には上限があり、これを「償却限度額」と呼びます。

法人の減価償却は、任意かつ計上額も選べるため、業績や資金繰りに応じた柔軟な利益調整が可能です。

たとえば、業績好調の年には、満額の減価償却費を計上して税負担を軽減できるでしょう。反対に業績が厳しい年には、減価償却費を抑制して、利益を確保するといった活用ができます。

【個人事業主向け】減価償却は必須

個人事業主の場合、減価償却は必須で「強制償却」となります。そのため、所得税法に基づき、毎年必ず減価償却費を計上しなければなりません。減価償却を必須とする理由は、個人事業主は帳簿が正確につけられていないことが多く、償却を任意にすると正しい減価償却費の計算が困難となるからです。

また、納税を先延ばしにするなど、意図的な操作ができないよう、毎年の減価償却が義務付けられています。

「減価償却で節税できる」は本当?その仕組みと誤解

「減価償却=節税」というイメージを持つ人も多いでしょう。しかし、減価償却で節税できるのは本当なのでしょうか?ここでは、減価償却で節税できることの真相や、誤解されやすい部分について見ていきましょう。

減価償却費が利益と税金に与える影響

企業の利益は、「売上―経費」で算出されるため、減価償却費を経費として計上すると、利益がその分減少します。法人税や所得税は、利益をベースに算出するため、結果的に法人税や所得税の納税額が減るといった仕組みです。

特に高額な設備投資を行った場合、その費用を毎年分散して計上できるため、資金繰りの平準化や税負担のコントロールにも役立ちます。

節税効果の誤解:減価償却は「直接的な節税」ではない?

減価償却は、支払う税金のトータル金額を減らすわけではありません。減価償却によって、資産の購入費用を複数年に分けて経費にすることで、その分だけ毎年の利益を抑えられることが特徴です。つまり、減価償却で得られる節税効果とは、税負担のタイミングを将来に分散・先送りする「繰り延べ効果」のことです。

活用次第で実質的な節税につながることも

減価償却をうまく活用すると、税負担を抑えられます。たとえば、「少額減価償却資産の特例」や「中小企業向けの優遇税制」を利用すれば、一定の条件下で一括償却や即時償却が認められます。すると、資産を購入した年の課税所得を、大幅に減らすことも可能です。その結果、短期的に「実質的な節税効果」を感じられるでしょう。ただし、長期的にはトータルの税負担は変わらないため、将来の経営計画も踏まえた活用が求められます。

法人が減価償却を行うべき4つのメリット

法人が減価償却を実施すると、経営上、さまざまなメリットを享受できます。特に重要な「4つのメリット」は、以下の通りです。

メリット1:課税所得を圧縮し、法人税等の負担を軽減

減価償却費を計上すると、その分だけ利益が減り、法人税を計算する際のベースとなる「課税所得」も少なくなります。結果的に、法人税の負担を軽減することが可能です。法人税の納税額が抑えられれば、企業の資金繰りの改善にもつながります。負担が減った分、「新たな設備投資」「研究開発」「人材育成」などの成長戦略に充当できるでしょう。

メリット2:正確な損益把握で経営判断をサポート

固定資産の費用を、耐用年数で均等配分することで、資産の使用実態を正確に反映できます。たとえば1,000万円の機械を購入し、毎年100万円を費用として計上するとします。その場合、機械が生み出す収益と、機械にかかる費用を同じ期間で対応させることが可能です。すると、毎年の設備投資が、どれだけの価値を生み出すかを把握できます。

設備投資の効果を正確に把握できることで、投資判断や事業戦略を考える際に、より具体的な判断が可能になるでしょう。

メリット3:決算書上の利益以上に手元資金が残る効果

企業が1,000万円の機械を購入すれば、その際に1,000万円分の支出が伴います。すでに支払いが完了しているため、翌年以降は、減価償却で「毎年100万円ずつ」費用として計上しても、新たな支出は発生しません。つまり初期投資後は、減価償却費を計上しても、企業の手元資金は減価償却費分だけ多く残ることになります。内部保留が蓄積されるため、新たな設備投資や将来的リスクなどに備えられるでしょう。

メリット4:金融機関からの信頼性向上

金融機関は、企業の財務諸表をチェックする際に、減価償却の状況にも注目する傾向にあります。適切な減価償却は、企業が長期的な視点で財務管理し、経営も透明であることを証明するからです。

そのため、適切に減価償却をすることで、融資審査で有利に評価される可能性があります。低金利での借入れや、より大きな与信枠を獲得できることもあるでしょう。

【実践編】減価償却を活用した具体的な節税対策5選

減価償却には、さまざまな特例や優遇制度が存在します。減価償却を活用した節税対策について、具体的な内容は以下の通りです。

対策1:減価償却の制度の活用

減価償却の制度は、購入金額に応じて、以下のように扱いが異なります。

【10万円未満】
取得した年に、一括で経費として処理できる。(つまり減価償却は不要)

【10万円から20万円未満】
3年間にわたる、均等償却が認められる。たとえば15万円のものを購入すれば、毎年5万円を経費として計上できる。

【(※中小企業限定)30万円未満】
中小企業者だけの特例として、全額を一括経費として計上できる。ただし、年間300万円までという上限があります。

対策2:中小企業向け税制優遇

中小企業に対し、「中小企業投資促進税制」や「中小企業経営強化税制」といった税制優遇が設けられています。これらの制度をうまく活用すれば、節税効果が期待できるでしょう。

【中小企業投資促進税制】
設備取得を行った際に、以下いずれかの税制優遇を受けられます。

  • 購入費用の30%部分を償却(※特別償却と呼ばれる)
  • 7%の税額控除

※資本金が3,000万円を超える中小企業では、特別償却に限られます。

【中小企業経営強化税制】
設備購入をした場合に、以下の税制優遇を受けられます。 (「中小企業経営強化税制」は、経営力向上計画の認定を受けた企業が対象です。)

  • 全額を、取得年度に一括計上
  • 条件に応じて、取得費用の10%か7%を法人税から控除

対策3:中古資産の活用

中古資産は、新品に比べて初期投資額を抑えられます。また減価償却の計算期間も短縮できることから、より早く費用を計上できます。そのため、中古資産を適切に活用すれば、節税対策になるでしょう。

たとえば、ある機械設備について、「新品は100万円」「中古は80万円」だとします。また新品の耐用年数が10年で、中古は5年とすると、減価償却の流れは以下の通りです。

  • 新品:毎年10万円を10年間で償却
  • 中古:毎年16万円を5年間で償却

上記の例では、中古資産は初期投資額が20万円安く、さらに償却期間も短縮されます。早期に費用も計上でき、資金繰りの改善につながる可能性があります。

対策4:赤字年度でも減価償却すべき?繰越欠損金の活用法

赤字決算の年度でも、減価償却費を計上することが大切です。生じた欠損金は、今後黒字になった場合に、所得と相殺できるからです。

たとえば、今年の売上が1000万円で、経費が1500万円、さらに200万円の減価償却費を計上したとします。その場合、700万円の欠損金が発生します。この欠損金は、将来の黒字年度において、課税対象となる所得から控除可能です。翌年「1000万円の利益」が出たら、700万円の欠損金を差し引けるため、課税対象となる所得は300万円に圧縮されます。

対策5:資産取得のタイミング – いつ買うのが得策か?

たとえば12月決算の企業だった場合、1月に固定資産を購入・使用すれば、初年度は1年分の経費をまるごと計上することが可能です。しかし、年度途中で購入・使用した場合には、月額計算になります。仮に、10月に購入・使用し始めると、費用として計上できるのは、「3か月分(10月から12月)」のみです。そのため、期首に近いタイミングで資産を取得・使用する方が、初年度の償却額を増やせるでしょう。

減価償却の注意点とデメリット

減価償却には、注意したいポイントが存在します。理解せずに運用すると、予期せぬトラブルや経営上の問題を招く恐れがあります。減価償却を行う際には、メリットだけでなく、注意点・デメリットにも目を向けることが大切です。

専門知識と管理の手間

減価償却を適切に行うには、会計や税務に関して、一定の専門知識が必要です。減価償却における計算方法・法定耐用年数の把握・最新の税法上のルールまで、幅広い知識が求められます。

資産の種類や取得時期によって、処理方法や金額も変わるため、正確な記録と詳細な台帳管理が欠かせません。事務的な作業が煩雑になることで、担当者に負担がかかりやすい点もデメリットといえるでしょう。

キャッシュフローへの影響

固定資産の購入時には、多額の支出が伴います。帳簿上は利益が出ていても、「手元の現金は乏しい」という事態も発生し得るでしょう。

たとえば、1,000万円の機械を購入し、初年度に全額を支払ったとします。しかし、減価償却では、定額法の場合、毎年一定額(例:年間100万円)しか経費計上できません。そのため、数年間は、帳簿上の利益と手元資金に差が生じる可能性もあります。キャッシュフローの不均衡は、資金の枯渇や事業展開の制限にもつながりかねません。適切な資金計画を立て、キャッシュフローの観点からも減価償却を捉えることが大切です。

税制改正への対応

減価償却に関する税法や特例制度は、時代の変化や国の政策に合わせて、頻繁に改正されます。(例:法定耐用年数の見直し/優遇措置の新設・廃止)

そのため、常に最新情報を把握し、資産管理や税務処理の方法をアップデートしていく必要があります。知識のアップデートを怠ると、想定外の税負担やペナルティが発生する恐れもあるでしょう。

税務に関するご相談は二見達彦税理士事務所にお任せください

減価償却は、「財務管理の透明性」や「経営状態の正確な把握」など、多くのメリットがあります。しかし適切にすすめるには、専門知識も欠かせません。知識不足のまま実施すると、予期せぬ税務リスクや、財務的な誤算を招く可能性があります。

減価償却を適切にすすめたい場合には、二見達彦税理士事務所にお任せください。当事務所では、会計処理や資産管理などの観点から、減価償却に関する包括的なサポートを提供します。貴社のニーズや状況に合わせて、最適な内容をご提案することも強みです。減価償却など、税務に関するご相談は、二見達彦税理士事務所までお気軽にお問い合わせください。初回相談は無料です。

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