法人化で本当に節税できる?メリット・デメリットと最適なタイミングを徹底解説

売上が順調で、実績を積み上げてきた個人事業主が検討すべきことは「法人化」です。法人化は社会的信用が高まるだけでなく、大きな節税効果も期待できます。
この記事では、法人化することで具体的にどのように節税できるのかを詳しく解説します。また、メリット・デメリットを深く理解することで、法人化の最適なタイミングを見極められるようになるので、ぜひ参考にしてください。
法人化とは?まず知っておきたい個人事業主との違い
法人化(法人成り)とは、事業を行っていた個人事業主が会社を設立し、事業を法人に引き継ぐことです。
法人になると事業の形態が変わるため、課される税金が所得税から法人税になり、決算月を自分で決められるようになります。
個人事業主に比べて社会的信用度も高まり、税制上のメリットも多いのが特徴です。
税金の仕組みが変わる:所得税と法人税
個人事業主に課される所得税と、法人に課される法人税は税率に違いがあります。所得税は、課税金額が多いほど税金が高くなる「累進課税制度」で、より高い所得者から相対的に多くの税金を徴収することで、税の公平性を高めることが目的です。
これに対し、法人税は所得の額に関わらず一定の税率が課される比例課税方式が採用されています。
経費にできる範囲の違い
法人化すると経費計上の範囲が広がり、役員報酬や社宅費用など、個人事業主では認められにくい費用が経費計上できるようになります。
【具体例】
- 社宅家賃
- 出張時の日当
- 役員報酬、退職金
- 生命保険料(法人契約)
社会的信用と責任の範囲
法人格を持つと、一般的には社会的信用が高まりますが、それは次の理由からになります。
- 法務局で登記するため、公的機関で存在が確認されている
- 組織として認識されるため、サービス品質やアフターフォロー、トラブル時の対応がしっかりしていると考えられる可能性が高い
また、法人が万が一倒産した際に、債権者に対して出資額を限度として責任を負うことを「有限責任」といいます。出資者は、出資したお金は消えてしまいますが、それ以上の責任は発生しない仕組みになっています。
【比較】法人化による節税メリット7選
ここでは、法人化の節税に関するメリットを紹介します。主に重要な7つのメリットは下記になります。
メリット1:自分や家族への給与が経費になり、給与所得控除も使える
法人は、自分や家族への給与(役員報酬)が経費として認められます。また、個人の所得税では給与所得控除が適用されるため、二重の節税効果が見込まれるでしょう。
ただし、法人では役員個人に社会保険加入の義務が発生すること、個人では、配偶者・配偶者特別控除、扶養控控除を受けられる範囲にするなど、役員報酬はさまざまな要素を考慮して支給するのが重要です。
メリット2:最大2年間!消費税の納税が免除される可能性
法人化すると、以下の要件を満たしていれば、最大で設立2期目まで消費税の納税義務が免除されます。
- 事業年度開始日における資本金、出資金が1,000万円未満であること
- 特定新規設立法人(※1)に該当しない法人であること
- 特定期間(※2)の課税売上が1,000万円以下であること(2年目)※3
※1 国税庁|特定新規設立法人の納税義務免除の特例
※2 原則としてその事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間
例:3月決算の場合、前年の4月1日~9月30日
※3 特定期間中の課税売上高の判定に変えて給与での判定も可能
例:特定期間中の課税売上高が1,000万円を超えても、特定期間中の給与支払額の合計が1,000万円以下の場合は免税事業者として認められる
ただし、2023年10月に始まったインボイス制度に登録して適格請求書発行事業者になると、条件的には免税事業者であっても課税事業者となり、消費税の申告、納税義務が発生するので注意しましょう。
メリット3:赤字を最大10年間繰り越せる
青色申告の場合、その事業年度の欠損金(赤字)を次年度に繰り越して、翌期以降の利益と相殺することが可能です。
繰り越すことのできる期間は、個人事業主の場合は3年ですが法人は10年になります。※4
欠損金が生じた事業年度や、その後の各事業年度に毎年青色申告で申告していることが条件となるため、手続きを怠らないようにしましょう。
※4 平成30年4月1日以前に開始した事業年度において生じた欠損金の繰越期間は9年
メリット4:退職金制度の活用で将来の税負担を軽減
法人の節税として、退職金制度の活用も有効です。多くの企業で採用されている退職金制度は経費として認められるものが多く、経営者や家族従業員にとっても税制上優遇された退職所得として扱われます。
【主な退職金制度】
- はぐくみ企業年金
- 企業型確定拠出年金
- 中小企業退職金共済制度
- 小規模企業共済制度(個人で加入)
各種さまざまな特徴があるので、自社にあったものを選ぶようにしましょう。
メリット5:経費として認められる範囲が広がる(社宅、出張日当など)
法人化すると、経費計上できる範囲が広がります。具体的には、法人名義で契約する社宅家賃や、個人事業主本人は認められない出張日当などです。なお、出張日当は社内の旅費規定に基づくものでないといけません。
また、健康診断費用やインフルエンザ予防接種費用も、役員、従業員ともに経費となります。ただし、役員が経費の対象となるのは、全従業員を対象としている場合のみのため注意しましょう。
メリット6:所得分散による税率コントロール
経営者や家族に役員報酬を支給して所得を分散させることで、世帯全体の税負担軽減につなげられます。
個人の所得税は累進課税制度が採用されており、所得が高くなればなるほど税率が上がる仕組みです。そこで、社長一人だけでなく、生計を一にする家族に役員報酬を支給することで、一人ひとりに適用される所得税率を下げ、トータルでの税負担縮小の可能性が高くなります。
メリット7:相続税・贈与税対策にもつながる
法人化は、将来的な高額の相続税、贈与税回避にもつながるでしょう。
通常、高額資産の相続は、最大で55%もの税率が課せられます。それらを法人化により計画的に資産分散させることで、相続税、贈与税の節税効果が期待できます。
具体的には、相続人となる役員たちへ役員報酬という形式での、法人名義の資産の移転です。役員報酬の計上は法人税の軽減につながり、実質的な相続人へ資産相続、贈与となるでしょう。
また、法人の株式を将来の被相続人が所有することで、相続の対象となる資産は株式のみとなります。非上場の株式の株価の評価方法は数種類あるため、場合によっては株式を通した相続が、相続税額低減につながるかもしれません。
節税だけじゃない法人化がもたらす経営上のメリット
法人化がもたらすメリットは節税だけではありません。ここでは具体的にどのような効果があるのかを紹介します。
社会的信用度がアップし、ビジネスチャンスが拡大
法人化すると、社会的信用度が高くなるとされています。理由として、登記により公的機関に確認されていること、会社法に基づいて厳格に運営されることなどが挙げられます。
社会的信用度が高いと、大手企業との取引や新規顧客の獲得など、ビジネスチャンスが広がりやすくなります。また、福利厚生や有利な待遇面の提示から、より優秀な人材が集まりやすくなるでしょう。
資金調達が有利になることも
法人化すると、金融機関の融資が受けやすくなります。
法人は事業を継続する責任があるため、財務の透明性からより安定した経営状態であると金融機関から評価されやすいからです。また、金融機関では個人事業主よりも法人の融資制度が充実している点も理由として挙げられます。
事業承継をスムーズに進められる
法人化は事業承継を円滑に進められます。
個人事業主の事業承継は、個人事業主の廃業、後継者の開業手続きが必要になります。また、事業用資産は、個別に売却や贈与、相続などで後継者に引き継ぐ形式になります。
一方、法人は、後継者が自社株を承継すれば、経営権や事業用資産はまとめて引き継がれます。取引先との契約も代表者の変更手続きのみのため、計画的かつスムーズに手続きを進められるでしょう。
知っておくべき法人化のデメリットと注意点
法人化を検討するうえで、メリットだけでなくデメリットを理解するのは大切です。ここでは注意点も交えて解説しますので、参考にしてください。
設立費用と維持コストがかかる
法人化するにはある一定の費用がかかります。企業形態にもよりますが、設立時は一般的に10万円から24万円程度かかるといわれており、主な内容は下記となります。
- 定款認証手数料
- 登録免許税
- 設立手数料
また、役員報酬や従業員給与のほか、税理士費用や社会保険料などの維持コストもかかります。法人化は長期的なキャッシュフローを考慮して検討するのが重要です。
社会保険への加入が必須!負担増を理解する
法人は、社長一人であっても健康保険、厚生年金保険への加入義務が発生します。
ここでいう法人の役員とは、常勤で一定の役員報酬が支払われている役員を指し、非常勤の役員や、役員報酬が保険料を納付する額に満たない場合は加入義務はありません。
また、法人の加入する社会保険は個人事業主とは種類が異なり、以下の会社負担が発生します。
- 健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料(40歳以上):会社負担50%
- 労災保険料※6 :会社負担100%
なお、厚生年金は会社の負担が発生するだけでなく、個人事業主が加入する国民年金に厚生年金部分を上乗せした金額を納付するため、役員個人の負担が増加するケースが多いようです。
※6 労災保険・雇用保険は役員は加入不可、従業員が在籍する場合に加入する
赤字でも税金が発生する(法人住民税均等割)
法人は、事業が赤字でも法人住民税(均等割)を納付する義務があります。法人住民税は、いわば行政サービスを享受する会費のようなもので、均等割、法人税割で構成されています。
その内、均等割は税率ではなく、企業の従業員数や資本金の金額をもとにして地方自治体ごとに金額が定められており、都道府県、市町村にかならず納付する義務のある税金です。
経理処理や事務作業が複雑化
法人化すると、法人税の申告が義務付けられるため、会計処理や事務作業の負担が増加します。加えて、給与や社会保険などの労務関係の手続きもあるため、本業に全力で取り組めなくなる可能性があります。
それを回避するには、税理士などの専門家に委託するのがおすすめです。当然ながら費用が発生するため、コストや時間、工数などのバランスを考えて依頼するのがよいでしょう。
交際費の損金算入に制限がある
法人の交際費は、原則としてその全額が損金不算入とされていますが、資本金、出資金の額が1億円以下の法人は、800万円までの損金算入が認められています。
なお、中小法人の場合、800万円までの損金算入か、飲食費の50%相当額の損金算入を選択できますが、実質的には800万円までの損金算入を選択するパターンが多いようです。
法人化のベストタイミングはいつ?3つの判断基準
法人化のタイミングは、事業の状況や売上高などによって見極める必要があります。正確な判断基準を理解して、今後の事業運営を向上させるためのベストタイミングを見極めましょう。
基準1:所得「800万円~900万円の壁」とは?
法人化のベストタイミングは、課税所得800万円から900万円を超えてからになります。理由は、所得税の税率が法人税の実効税率を上回り始めるのが、800万円からとなるためです。
基準2:売上高1,000万円超えと消費税
年間の課税売上高が1,000万円を超えると、原則としてその2年後から消費税課税事業者となります。この場合も、法人化のベストタイミングといえるでしょう。前述したように、法人化すると、最大で設立2期目までは消費税の免税事務が免除されるためです。
しかし、インボイス制度に登録して適格請求書発行事業者になる予定がある場合は、課税事業者となるため注意しましょう。
基準3:事業拡大、人材採用、対外的な信用が必要なとき
所得や売上高など、数字の面だけでなく、事業の多角的化や規模拡大を進めたい場合も法人化を検討するタイミングといえます。
法人化は、優秀な人材の雇用や取引先からの信用度向上につながります。それらを武器に、法人でなければ取引できない事業者との取引も可能になるなど、経営戦略としての法人化の重要なタイミングといえるでしょう。
法人化を検討中の方は二見達彦税理士事務所にご相談ください
法人化は、将来の事業規模や所得など、長期的な目線で慎重に検討するのが重要になります。法人化に悩む場合は、税務や事業経営の専門家に相談するのがおすすめです。一見、複雑な法人化のプロセスですが、専門家からの具体的なアドバイスや対策方法から課題解決が期待できるでしょう。
二見達彦税理士事務所は、法人化の実績豊富な専門家が経営者の視点に立って、あらゆる角度から課題解決のサポートをいたします。創業期に強い独自の支援サービスもあるので、法人化に関するお悩みや質問は、弊所まで気軽にお問合せください。初回相談は無料です。