役員報酬は売上の何パーセントが適正?決め方の手順と相場を解説

役員報酬を高く設定した結果、会社の経営を圧迫するのは避けたいところです。しかし低すぎれば、役員自身の生活やモチベーションにも影響が出てしまいます。そのため、多くの経営者が、役員報酬の「さじ加減」に頭を悩ませているのが実情です。実は役員報酬には、リスクを避けつつ、会社と個人の双方にとって最適な金額を導き出す決め方があります。
そこで本記事では、よく言われる「売上の何%」という目安に加え、具体的な決め方の手順や注意点まで解説します。
役員報酬の目安は売上の3〜10%
結論から言うと、役員報酬の一般的な目安は「売上の3〜10%」です。ただし、相場だけで決定するのは危険だと言えます。同じ売り上げでも利益率が「5%の会社」と「30%の会社」では、会社に残せるキャッシュが異なり、適正な役員報酬も変わるからです。
重要なのは、会社の利益水準や業種の特性から、将来の投資計画といった複数の要素までを総合的に判断することです。たとえば、設立間もない成長企業では「売上の3%以下」に抑えて投資に回し、安定期の企業では「10%を超える」といった柔軟な判断が求められます。
役員報酬の適正割合を示す4つの指標
役員報酬を決める要素は、売上だけではありません。ここでは役員報酬を決める際に参考にしたい、「売上高」「利益額」「粗利益」「労働分配率」という4つの指標について解説します。
売上高を基準にする
まずは、役員報酬の総額が「売上高に対してどのくらいの割合を占めるか」について、適正水準をチェックしてみましょう。一般的な目安は、以下の通りです。
| 売上高 | 役員報酬の割合の目安 |
|---|---|
| 5,000万円未満 | 8~10% |
| 5,000万円~1億円未満 | 5~8% |
| 1億円~5億円未満 | 3~5% |
| 5億円以上 | 1~3% |
表の通り、事業規模が小さいほど、売上高に占める役員報酬の割合は高くなる傾向にあります。一方で規模が大きくなるにつれて、割合は低下することがわかります。会社が成長するにつれ、売上に対する役員報酬の割合が低下する理由は、人件費や経費が増加して「売上に対する役員報酬の比重」が小さくなるためです。自社の売上規模と照らし合わせ、目安の範囲内に収まっているかを確認しましょう。
利益額を基準にする
役員報酬は、会社の利益から支払われるため、「利益額」も目安にします。一般的に、役員報酬は年間利益の20%以内に抑えるとよいでしょう。残りの利益は、法人税の支払いに加え、事業拡大に向けた設備投資や、不測の事態に備える内部留保として会社に蓄える必要があるからです。
そのため、利益の大部分を役員報酬に充ててしまうのは危険です。安定した経営のためにも、利益と報酬のバランスを考えましょう。
粗利益(売上総利益)を基準にする
粗利益(売上総利益)は、売上高から売上原価を差し引いた金額です。また中小企業における一つのモデルとして「人件費(役員報酬+従業員給与)の総額を、粗利益の50%以内に抑える」という考え方があります。
残りの50%で家賃や広告費などを支払い、最終的な営業利益を確保するためです。このルールを設けることで、人件費が過大になるのを防ぎ、確実に利益を残しやすくなります。 まず「粗利益の50%」で人件費全体の予算を決め、その予算内で役員報酬の金額を設定しましょう。
労働分配率で従業員給与とのバランスを取る
従業員を雇用している場合、役員報酬だけを突出させるわけにはいきません。従業員の納得感を得るためにも、「従業員の給与」と「役員報酬」とのバランスを考える必要があります。そこで役に立つのが、客観的に指標を測れる「労働分配率」です。
労働分配率は、会社が生み出した付加価値(粗利益)のうち、どれだけを人件費(役員報酬+従業員給与)に分配したかを示す割合です。計算式は「人件費 ÷ 粗利益 × 100」になります。業種により異なるものの、40〜60%が適正範囲です。
経営戦略別の役員報酬の考え方
役員報酬をいくらにするかは、会社が目指す方向によって変わります。ここでは、ゴールを4つのパターンに分けたうえで、具体的な考え方を解説します。
【成長戦略】利益を再投資し、企業価値を最大化する
事業の拡大をメインに考える場合には、役員報酬は最低限に抑えることが大切です。具体的には、生活できる程度の300〜600万円に設定して、残った利益は事業の拡大に回します。たとえば、「新たな設備を買う」「優秀な人材を採用する」といった投資にお金を使った方が、大きなリターンを期待できるからです。現時点では我慢が必要なものの、事業が軌道に乗れば会社の価値そのものが何倍にもなる可能性があります。
ただし、役員報酬があまりに低すぎると生活に支障が出るので、最低限のラインは確保しておきましょう。
【安定戦略】キャッシュフローを維持し、堅実な経営を目指す
事業が軌道に乗り、安定した経営を目指す場合には、役員報酬を「利益の15〜25%程度」に設定し、残りは会社に蓄えておきましょう。大口取引先から急に契約を切られたり、コロナのような予想外の事態が起きたりするなど、さまざまなリスクに備える必要があるからです。リスクが発生した際にお金がないと、経営が苦しくなります。
「儲かった分、報酬を上げる」といった考え方もありますが、安定を目指すなら我慢も必要です。年間800〜1,500万円程度で生活の安定を確保しつつ、会社の体力も維持することが大切です。
【バイアウト戦略】役員報酬を抑え、企業価値を高める
「いずれは会社を売却する」と考えるなら、役員報酬は思い切って低く設定してもよいでしょう。なぜなら、買い手は「決算書の利益」を基準に買収を判断するからです。
たとえば、税引前の利益が1,400万円ある会社の場合、社長報酬を800万円にすると、決算書の利益は「1,400万円-800万円=600万円」になります。一方で社長報酬を400万円にすると、決算書の利益は「1,400万円-400万円=1,000万円」です。買い手の企業は、後者の方を「利益1,000万円の会社」として高く評価します。社長の人件費を差し引いた場合に、より多くの利益が残るからです。
【借入金がある場合】返済計画を最優先する
銀行からお金を借りている場合には、返済を最優先に考えましょう。「社長がそんなに給料をもらっているなら、返済に回せるでしょ」と銀行に言われたら、返す言葉もありません。
また役員報酬を高く設定して返済が滞ったら、銀行との関係は悪化します。利益から返済額を差し引き、そのうえで報酬を決めるのが鉄則です。返済実績を作り銀行の信頼を得られれば、将来の資金調達もスムーズになります。また借入がある間は、役員報酬を同業他社の平均以下に抑えるのが無難です。
役員報酬の具体的な決め方と法的手続きの3ステップ
報酬額のイメージが固まったら、今度は法的に有効な形で決定・支給する必要があります。間違えると税務署から経費として認められず、思わぬペナルティを受けることもあるからです。正しい手順で進めるために、3つのステップを確認していきましょう。
Step 1:事業計画に基づき報酬の原資をシミュレーションする
まずは来年度の売上と利益を予測し、役員報酬にいくら回せるかを計算します。ここで注意したいのは、社会保険料も考慮することです。たとえば月額100万円の役員報酬を設定すると、会社負担の社会保険料が約30万円かかります。つまり実際のコストは月130万円であり、年間で1,560万円になるのです。
また事業計画は、税務調査で「なぜこの金額にしたのか」を説明する根拠にもなります。売上や経費の予想、利益の目標などを具体的な数字で作成し、その範囲内で報酬額を決定したという流れをクリアにしておくと安心です。
なお、事業計画の精度を高めるためには、月次での業績管理が重要です。詳しくは「月次決算とは?目的から流れ、効率化のコツまで解説」をご参照ください。
Step 2:株主総会で決議し、議事録を作成・保管する
役員報酬を決める際には、株主総会での決議が必要です。一人会社でも、この手続きは省略できません。そのため、株主総会を開いて議事録を作成し、しっかりと内容を保管しておくことが大切です。
また議事録は、税務調査で「役員報酬が正当な手続きで決定された」ことを証明する書類になります。加えて、10年間にわたる保管が義務付けられています。紛失すると税務署に損金算入を否認される可能性があるので、コピーを自宅や税理士事務所にも置いておくと安心です。
Step 3:決定した報酬額を「定期同額給与」として支給する
株主総会で決めた報酬額は、毎月「同じ金額」で支給します。定期同額給与と呼ばれており、役員報酬が経費として認められるための絶対条件です。
「今月は売上がよかったから多めに」「今月は厳しいから少めに」といった変更はできません。1円でも違えば、その事業年度の役員報酬が、経費として認められなくなる可能性があります。
ただし、事業年度の開始から3ヶ月以内であれば金額の変更が可能です。また、業績悪化による減額も一定の条件下で認められます。とはいえ、1年間は変更できないと考えておくと無難です。
役員報酬を決める際に考慮しておきたい注意点
役員報酬を決める際に、知らずにいると追徴課税や経費否認といった痛いペナルティを受ける内容があります。ここでは、特に税務調査で指摘されやすいポイントについて、5つをピックアップしました。
税務調査で否認される「不相当に高額な役員報酬」のリスク
税務署は、同業他社より明らかに高い役員報酬は、基本的に経費として認めません。「不相当に高額な役員報酬」と呼ばれ、税務調査でよく問題になります。たとえば、年商3,000万円の会社で社長報酬が年2,000万円の場合には、高すぎると指摘されるでしょう。ただし、高額でも「特殊な技術を持っている」「営業力が抜群で売上に直結している」など、合理的な根拠を示せれば、経費として認められることがあります。
目安として、同業他社の平均的な役員報酬の1.5〜2倍程度までなら、否認される可能性は低いでしょう。不安な場合には、事前に税理士に相談することをおすすめします。
法人税と個人の所得税・社会保険料の最適なバランスを見つける
役員報酬を上げると個人の所得税は増えますが、法人税は下がります。逆に報酬を下げれば所得税は減り、法人税が上がります。そのため、所得税と法人税のバランスを配慮し、トータルの手残りを最大化することが大切です。
さらに社会保険料も考慮する必要があります。役員報酬が上がると社会保険料も増えるので、単純に税金だけで判断するのは危険です。
会社の状況によって異なりますが、一般的には、年収600〜900万円あたりに「ベストな金額」が存在するケースが多いです。税理士にシミュレーションを依頼すれば、具体的な金額を算出してもらえます。
従業員の給与水準と乖離させすぎない
役員報酬が従業員の給与とかけ離れすぎると、「社長だけ高給取りで自分は安月給」という空気になりやすく、モチベーションの低下や離職率の上昇にもつながります。
また、税務面でも注意が必要です。従業員の平均年収が300万円なのに社長報酬が2,000万円だと、税務調査で「本当にそれだけの価値があるのか?」と疑問視される可能性があります。特に同族会社では、この点を厳しくチェックされる傾向にあります。
もちろん、会社の規模が大きくなったり、社長の貢献度が明らかに高かったりする場合は、この限りではありません。その場合でも、従業員に背景を説明することは大切です。
事業年度開始後3ヶ月以内という変更期限のルール
役員報酬を変更できるのは、基本的に「事業年度が始まってから3ヶ月以内」です。期間を過ぎると、原則として次の事業年度まで金額を変更できません。
たとえば4月決算の会社なら、5月から7月末までです。また期間内に変更しても、変更前後の報酬が両方とも経費として認められるには、正当な理由が必要です。
3ヶ月ルールを知らずに期間を過ぎてから変更すると、変更後の報酬が経費として認められないため、法人税が増えることになります。ただし、業績が著しく悪化した場合の減額などは、事業年度が始まって3ヶ月を過ぎても認められることがあります。
役員賞与(事前確定届出給与)の厳格なルール
役員に支給したボーナスを会社の経費にしたい場合には、「事前確定届出給与」という制度を使います。ただし、非常に厳格なルールであるため、少しでも間違えると経費として認められません。
まず、株主総会で「◯月◯日に◯◯万円を支給する」と決議し、決議から1ヶ月以内に、税務署に届出書を提出します。さらに重要なのは、決めた通りの日付・金額で支給することです。1日でも遅れたり、1円でも金額が違ったりすると、経費として認められません。実際に、多くの企業がルールを守れずに、経費を否認されています。そのため、確実に実行できる自信がない場合には、制度を使わない方が無難です。
役員報酬に疑問が生じた場合は二見達彦税理士事務所にご相談ください
役員報酬を設定する際には、経営戦略や税務・労務に関する知識など、さまざまな専門知識が必要です。
特に、税務調査での否認リスクや、法人税と所得税のバランス調整などは、専門家のサポートなしに適切な判断を下すのは難しいでしょう。
二見達彦税理士事務所では、中小企業の経営実態を熟知した税理士が、お客様の事業規模・成長段階・将来計画などに合わせて、最適な役員報酬をご提案いたします。
また報酬額の計算にとどまらず、企業の長期的な目標達成をサポートする総合的なアドバイスも心がけています。役員報酬でお悩みの場合には、二見達彦税理士までお気軽にご相談ください。
