法人向け固定資産税の徹底解説|計算方法から節税対策、申告・納付のポイントまで

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法人名義の固定資産税は、個人とは違い、留意すべきポイントが多く複雑です。固定資産が多額であるものが多く、所有しているだけで事業の経営にも大きく影響するでしょう。

この記事では、法人向けの固定資産税の計算方法や節税対策、注意点などを詳しく解説しています。深く理解することで事業の業績向上につながる可能性が高まるので、ぜひ参考にしてください。

目次

法人の固定資産税とは?

法人の固定資産税とは、事業を継続するために使われる資産に対する税金のことです。

事業を運営していくうえで、固定資産税について深く理解することは重要です。法人名義の固定資産は、固定資産税のほか、資産購入の経費や毎年の減価償却費計上などで利益を抑えられ、資金繰りの調整や節税が可能になります。

納税義務者:誰が、いつ時点の所有に対して支払うのか

固定資産税は、法人・個人問わず、毎年1月1日時点(賦課期日)に固定資産を所有する人に納税義務が課せられます。

固定資産の所在地納税先納期
東京23区東京都6月・9月・12月・2月
東京23区以外の市町村固定資産のある市町村4月・7月・12月・2月(大阪市の場合)※1

※1 各自治体によって異なります

なお、1年の途中で固定資産の所有者が変わっても納税義務者は変わりません。あくまでも1月1日時点で所有者として登録されている人に納付する義務があります。

課税対象となる「固定資産」の範囲

法人が所有する資産のうち、固定資産税の課税対象となるのは下記です。

固定資産の種類非課税になる額(免税点)
土地畑・山林・牧場・宅地など計30万円未満
建物持ち家・店舗・工場など計20万円未満
償却資産エアコン・陳列棚・看板など計150万円未満

上記3種類のうち償却資産は特殊な扱いで、土地や建物と違い、事前に申告が必要です。詳細は後述します。

固定資産税はいくらかかる?計算方法と税率を理解する

節税対策を考えるうえで、固定資産税の算出方法を理解するのは重要です。ここでは具体的な税額の計算方法を解説します。

計算の基礎:固定資産税評価額(課税標準額)とは

固定資産税評価額とは、固定資産税を計算する際に基準になる評価額で、納税通知書と共に送られてくる課税明細書に記載されています。

固定資産税評価額は、各市町村が定めた固定資産評価基準に基づいて決められ、通常、課税標準額と同一額になります。

一方で、課税標準の特例措置や土地の調整措置が適用される場合は、課税標準額は評価額よりも低くなることがあるので、固定資産税評価額と課税標準額を混同しないようにしましょう。

固定資産税の標準税率と自治体による差異

固定資産税の税率は1.4%が標準税率となり原則として全国一律です。ただし、財政上必要があるときは、市町村の判断でこれを上回る税率を課される場合があるので注意しましょう。

基本的な計算式:固定資産税評価額 × 税率

固定資産税 = 固定資産税評価額(課税標準額)× 1.4% (標準税率)

固定資産税額を導き出す基本的な計算式は上記となります。しかし、前述したように税率が変わる場合があり、課税標準額の元となる固定資産評価額も3年に1度見直されるため(評価替え)、毎年同じ税額とは限りません。

固定資産税の申告と納付|手続きの流れと期限

ここでは固定資産の納付方法や手続きについて説明します。自ら申告が必要な償却資産の申告についても詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。

納税通知書の受領と納付時期・回数

固定資産税の納税通知書は、第1期納付期日の1ヶ月前頃に届くことが多いようです。各納付期日までに一括、または前倒しで納付することが可能ですが、前述したように年4回の分割払いが前提となります。

また、固定資産税は一括納付しても割引はありません。反対に、納付が遅れると最大で14.6%の延滞金がかかります。延滞金を課せられても対応しない場合は、差し押さえの対象となる可能性もあるため注意しましょう。

多様な納付方法:窓口、口座振替から電子納付まで

固定資産税の納付方法は下記のように多数あります。利便性も考え、自社に合った納付方法を選ぶようにしましょう。

  1. 金融機関、市役所、市税事務所の窓口で納付
  2. コンビニエンスストアで納付
  3. 口座振替で納付※
  4. eLTAX地方税お支払サイト経由で納付
    • スマートフォン決済(QRコード・eL番号)で納付
    • クレジットカードで納付
    • インターネットバンキングで納付
    • 口座振替(ダイレクト納付)で納付※
    • Pay-easy(ペイジー)で納付

※事前に申し込みが必要

なお、納付方法は各自治体によって異なるため、希望する方法で納付できるかを確認する必要があります。

参照:eLTAX|地方税お支払サイト

償却資産の申告手続き:毎年1月31日までに何をすべきか

償却資産とは、「土地および家屋以外の事業など業務のために用いられる資産」で、1月31日までに、法人が自ら自治体に申告する必要があります。

この申告は、法人が所有する償却資産から、地方自治体が適切に固定資産税を計算できるようにするためのものです。間違いのないように、詳細を理解して申告するようにしましょう。

償却資産の具体的な対象は以下になります。

具体例
構築物(建物付属設備)※2路面塗装・門塀などの外構・看板など
機械および装置各種製造設備など
船舶ボート・釣り船・観光船など
航空機飛行機・ヘリコプター・グライダーなど
車両および運搬具自動車税・軽自動車税の対象とならない車両(ブルドーザーなどの大型特殊自動車)
工具、器具および備品パソコン・エアコン・陳列棚・医療、理美容機器など

※2 家屋の構造上一体となる建物付属設備は対象外

また、社宅、寮など、直接営利事業に用いていない施設の器具備品や構築物なども、償却資産の対象になりますので注意が必要です。

【法人必見】固定資産税の節税対策と軽減措置

固定資産税の節税は、制度や対策を理解するのが大切です。ここでは、節税対策のほか、最新の軽減措置も紹介していますので、自社で活用できるかを調べてみましょう。

知っておきたい「免税点」:非課税となるケース

固定資産の課税標準額の合計で、超えた時点ではじめて課税される一定の金額を免税点といいます。

前述したように、土地は30万円、建物は20万円、償却資産は150万円が免税点となります。課税標準額は資産が所在する自治体ごとで合算するのがポイントです。

また、償却資産の課税標準額の合計が免税点の150万円未満の場合でも、償却資産申告書の提出は必要ですので注意しましょう。

償却資産に関する節税テクニック

償却資産に関する節税対策の一つに、取得時期や処分時期の調整があります。納税義務は、固定資産を1月1日に所有しているかで決まるので、前年の12月31日までに売却や廃棄、除却した資産は、減少資産として申告するのを忘れないようにしましょう。

また、1月2日以降に取得した資産も申告する必要がないため、日程を調整して取得するのもよいでしょう。

会計処理においても節税は可能です。免税点の計算は、税込経理を採用している場合は消費税込、税抜経理の場合は税抜で考えるため、税抜処理を採用するのがおすすめです。

例:税込110万円と44万円で固定資産を取得した場合

  • 税抜経理:税抜の100万円 + 40万円 = 140万円 → 免税点未満
  • 税込経理:税込の110万 + 44万円 = 154万円 → 免税点以上

さらに、損金計上できる少額の固定資産にも注意が必要です。下記のように、一括償却資産は償却資産の対象外となるため、20万円未満の少額の固定資産の取得の機会が多い場合には選択するとよいでしょう。

固定資産の額適用される制度償却資産税
10万円未満 or 使用可能期間1年未満少額の減価償却資産制度対象外
10万円以上20万円未満一括償却資産の制度対象外
10万円以上30万円未満中小企業者等の少額減価償却資産の特例の制度対象

なお、少額減価償却資産の特例を適用した固定資産は、取得した年だけでなく、毎年償却資産として申告の対象になるので注意が必要です。

参考:国税庁|中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

土地・家屋の評価額や税負担を軽減する方法

土地、家屋の税負担を軽減する対策として分筆の手法があります。分筆とは、登記簿上の土地を区分けすることです。

土地はすべて均一の価値を持つわけではありません。たとえば、広大な土地の場合、大通りに面している部分は価値が高く、交通の便が悪い部分は価値が低くなります。これらを分割して登記することで、別々に評価され評価額を下げられる可能性が高くなるのです。

また、宅地の場合、更地にかかる固定資産税と比べて6分の1に減額される住宅用地の特例や、さらに税額が減る農地としての認定など、自社で活用できる制度の有無を調べてみましょう。

新築の場合は長期優良住宅の認定で軽減措置の適用が可能です。既存住宅でも省エネや耐震改修、バリアフリーなどのリフォームで同様に軽減措置の対象となるので、固定資産の改修を検討している場合は、事前に自治体に確認してみましょう。

中小企業向けの特例措置:「先端設備等導入計画」の活用

固定資産税の軽減になる中小企業向けの特例として、中小企業庁の先端設備等導入計画があります。

この制度は、中小企業が設備投資を通じて労働生産性の向上を実現させるための計画で、現段階では2027年3月31日までに取得した固定資産が対象となります。

対象者・先端設備等導入計画の認定を受けた者
対象設備・取得価格・機械装置(160万円以上)
・測定工具および検査工具(30万円以上)
・器具備品(30万円以上)
・建物付属設備(60万円以上)※家屋と一体となっているものを除く
特例措置・1.5%以上の賃上げ表明の場合:3年間課税標準を2分の1に軽減
・3%以上の賃上げ表明の場合:5年間課税標準を4分の1に軽減

上記の固定資産の取得予定がある企業は、自社が対象になるかを確認してみましょう。なお、先端設備等導入計画の認定を受けたあとに、固定資産を取得するのが必須となっているので注意が必要です。

参照:中小企業庁|先端設備等導入計画について

法人名義で固定資産を所有する税務上のメリット

法人名義で固定資産を所有する最大のメリットは、法人税の節税になることです。

たとえば、個人で不動産を購入した際の費用は経費計上できませんが、法人の場合は購入費用や減価償却費などを経費計上して節税につなげられます。また、法人名義の固定資産は売却して利益調整ができるため、損失が出た場合のリスクヘッジとして有効です。

固定資産税に関する留意点とトラブルシューティング

ここでは、固定資産に関する留意点と問題が起きたときの対処法を紹介します。理解することでルール違反にならないようにして、事業に影響のないようにするのが重要です。

資産の取得・処分、用途変更時の税務上の注意

固定資産税の納税義務者は1月1日時点の所有者ですが、年度の途中で固定資産を取得した場合、減価償却費は月割りで計算する必要があります。減価償却の計算は、償却資産においては課税標準額に関わるため、注意が必要です。

また、事業用として使用しなくなった場合は、「除却処理(帳簿上事業用の資産でなくなる処理)」が必要です。似たような言葉に「廃棄」「減損」がありますが、廃棄は捨てることで物理的に失くすこと、減損は資産の収益性が低下して投資額の回収が見込めなくなった場合に実施する処理で、意味合いが異なります。

住宅から店舗といった固定資産の用途変更があった場合は、支出した工事費用の固定資産計上が必要です。(資本的支出)事業用に変更すると、土地は住宅用地の特例の対象外となり、家屋は経過年数に応じた原価率か変更されるため、評価額にも影響がある可能性が高いでしょう。

3年ごとの評価替えとは?

固定資産の評価替えとは、総務大臣が定めた固定資産評価基準に基づき、3年に一度、土地、家屋の評価を見直す制度です。

直近では、2024年に見直しが行われたため、原則として2025年、2026年は価格が据え置きとなります。例外として、地価の下落により価格を据え置くのが適切ではないと判断される場合は、区域によって価格修正される場合もあるようです。

また、時価の値下がりがあっても、原則として評価損として損金算入は認められていません。あくまでも資産を売却しなければ、その損失は実現しないという考え方になります。

申告漏れ・記載誤りがあった場合の訂正申告方法

償却資産の申告漏れや記載誤りがあった場合は、自治体に訂正申告をして正しい税額に是正しましょう。遡及期間は原則5年で、備考欄に「修正」と明記し、修正年度や内容が分かるようにするのが重要です。

また、記載方法の詳細は自治体によって異なりますので、事前に確認するのがよいでしょう。

滞納した場合のペナルティ:延滞税と差押えリスク

固定資産税を滞納すると、納期限の翌日から延滞金が発生します。督促に応じず未納が長期に渡る場合は、土地や建物、預貯金などの差し押さえのリスクがあるので注意が必要です。

何らかの理由で納付が難しい場合は、自治体に分割納付や減免、猶予の相談をするとよいでしょう。課税内容の詳細に不服がある場合は申し立ても可能ですので、放置しないようにするのが大切です。

固定資産評価額に不服がある場合の審査申出制度

自治体が決定した固定資産の評価額に納得がいかない場合の不服の申し立ては、審査申出制度といい、固定資産評価審査委員会に審査の申し出をします。

申し出の期日は、自治体から納税通知書の交付を受けた日の翌日から3ヶ月以内で、固定資産評価審査申出書のほか、必要な書類は自治体に確認するのがよいでしょう。

ただし、3年に一度の評価替えの年度以外は、地目の変更や家屋の新築、増改築、損壊などがあった場合の申し出のみに限られます。

固定資産税に関する相談は二見達彦税理士事務所にお任せください

法人名義の固定資産は多額であることが多いため、今後の事業の資金繰りや経営自体にも大きく影響します。また、固定資産税に関する最新の制度も理解する必要があり、難解な部分も多いでしょう。

二見達彦税理士事務所は、固定資産に関するプロが、中長期的な目線で各企業に最適かつきめ細やかなアドバイスをいたします。弊所では固定資産税だけでなく、税務顧問・経理代行もサポート可能ですので、お困りごとがある場合は気軽にご相談ください。

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