役員報酬の決め方完全ガイド|基本ルール・設定のポイント・注意点

法人を設立したものの、「役員報酬の決め方がわからない」「変更できるの?」「適切な金額とは?」と悩んでいる方も多いでしょう。
この記事では、役員報酬の決め方の基本ルールや、具体的な設定のポイントなどを詳しく紹介します。注意点も交えて説明していますので、ぜひ参考にしてください。
役員報酬の決め方が重要な理由
役員報酬の決定は企業業績に大きな影響を与えます。役員は企業のガバナンスを統括する立場にあり、中長期的な経営戦略につながるからです。
業績や税負担、資金繰りなどを踏まえた適切な役員報酬の決定は、役員自身の責任と権限を明確にして、目標達成に向けて努力する動機になります。
バランスのとれた役員報酬の設定が、役員、従業員の向上心につながり、企業価値を高めることにつながるでしょう。
役員報酬とは?
役員報酬とは、会社の役員に対して支払われる職務執行の対価です。役員は会社に雇用されているわけではないので、全額損金算入できる(経費計上できる)従業員給与とは法的根拠や性質が異なります。
役員報酬と従業員給与の違いは以下となります。
役員報酬 | 従業員給与 | |
---|---|---|
対価の種類 | 職務執行の対価 | 労働の対価 |
支払いに必要な条件 | 自由に設定可能 | 勤務実績に基づく |
割増賃金(残業代)の有無 | なし | あり |
健康保険・厚生年金保険 | 適用あり ※1 | 適用あり |
雇用保険・労災保険 | 適用なし | 適用あり |
損金算入 | 特定の条件を満たす必要がある | 全額損金算入可能 |
※1:非常勤役員は加入の義務なし
上記のように、役員報酬は従業員給与とは性質が異なり、会社法361条で細かく定義づけされています。
参照:会社法
役員報酬の決定プロセスと法的根拠
役員報酬は自由に決められますが、会社法に基づいたプロセスの遵守が必要です。
役員報酬決定のプロセスにおいて、議事録の作成と保管は決定事項の法的根拠となり、税務調査への備えとして非常に重要な役割を果たします。
ここではパターン別に、役員報酬の決め方の具体的なプロセスを紹介しましょう。
株主総会での決議
まず、はじめに株主総会で役員報酬の総額や上限を決定します。
会社法で役員報酬は、「定款または株主総会の決議のよって定める」と規定されていますが、中小企業や小規模な法人では定款で明確にしていないケースが一般的です。
株主総会は決算日から3ヶ月以内に開く必要があり、役員報酬の決定は、過半数の賛成票を得られれば可決されます。
取締役会での配分決定 (または代表取締役への一任)
次に、株主総会で決定した役員報酬の総額を基に、各役員の個別報酬の配分を決定しましましょう。こちらも株主総会同様、過半数の賛成が必要になり、取締役会がない場合は取締役の一任となります。
なお、税務調査で役員報酬決定の経緯について説明を求められる場合があるため、株主総会、取締役会ともに必ず議事録を作成して保管するのがポイントです。
合同会社の場合も株式会社と同様、定款に定めるか、社員の過半数以上の同意を得て役員報酬を決定します。
ただし、定款に役員報酬の総額を記載すると、企業形態に関わらず、役員報酬変更時に定款を変更する手間がかかるため注意が必要です。
役員報酬を決定・変更するタイミング
税法上、損金として認められる役員報酬には「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」の3種類があります。
役員報酬の形態 | 支給形態の違い | 損金算入のための要件 |
---|---|---|
定期同額給与 | 一定期間ごとに定額を支払う役員報酬(役員の月収) | ・届出の必要なし ・変更、決定に期限がある |
事前確定届出給与 | 事前の届出提出で損金算入できる役員報酬(役員の賞与) | ・届出の提出が必要 ・決定に期限がある |
業績連動給与 | 一定の条件のもとで業績に連動して支給する役員報酬、従業員賞与など | ・一定の要件を満たす必要がある |
ここでは、役員報酬の変更や決定のタイミングについて解説します。
新設法人の場合
新設法人の役員報酬の金額は、会社設立日から3ヶ月以内に決めなければなりません。ここでいう役員報酬とは、「定期同額給与」のことです。
たとえば、5月3日が会社設立日の場合、3ヶ月後の8月2日までに株主総会を開催して役員報酬を決定します。この場合、遅くとも8月からは役員報酬を支払う必要があり、一度決定した役員報酬(定期同額給与)額は、基本的に事業年度末まで固定となります。
また、役員報酬には「日割」という概念がないため、株主総会が月半ばであっても1ヶ月分の報酬の支払いが必要です。
会社設立直後は利益が安定しない可能性が高いため、あえて設立から2ヶ月は役員報酬を支払わずに3ヶ月目から支払う方法もあります。会社の経営状況を踏まえて、自社にとって適切なタイミングで支払うのが重要です。
ただし、設立後3ヶ月以内に株主総会を開いて「役員報酬の支払いは5ヶ月目から」と決議しても、損金として計上できないため注意しましょう。
既存法人の場合
すでに事業を行っている法人の役員報酬(定期同額給与)の変更は、新設法人同様、原則として事業年度開始の日から3ヶ月以内に行う必要があります。
この場合も、株主総会や取締役会を開いて、決議の議事録を残さなければなりません。
損金算入が認められる役員報酬の種類
損金算入が認められる役員報酬には「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」があります。
ここでは、それぞれの違いや要件について説明しますので参考にしてください。
1. 定期同額給与
定期同額給与は、一定期間ごとに同額で支払われる役員の月収のようなもので、全額損金算入できる報酬です。
前述しているように、役員報酬額の変更は原則として事業年度の開始日から3ヶ月以内に決定する必要があります。通常は定時株主総会のタイミングで改定されることが多いようです。
定期同額給与は、基本的に事業年度の途中で金額を変更できない役員報酬ですが、下記の場合は変更が可能となります。
- 職務上、退職や役員地位の変更があった場合
- 経営悪化に伴う借入金のリスケジュールや、経営責任から役員報酬改定が必要な場合
ただし、このようなケースは、税務調査の際に変更理由に妥当性がないと判断されるリスクもあります。追徴課税の対象とならないように、必ず議事録を作成して保管しておきましょう。
また、役員報酬(定期同額給与)に未払いが発生しても、損金算入と社会保険料の支払い義務は残りますので注意が必要です。
2. 事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、いわば役員賞与にあたるものです。原則、役員への賞与は損金算入できませんが、期日内に所轄税務署に届け出ると損金として認められます。
また、届出どおりの日付で、決定した金額を支給する必要があります。たとえば、「7月分は支給したが12月分は支給していない」のように、届出の内容と合致しない場合は、全額損金不算入となるので注意しましょう。
税務署への届出期限は、「株主総会で決議をした日から1ヶ月以内」「事業年度開始日から4カ月以内」のどちらか早い日となります。
例:3月決算の法人が臨時株主総会を5月20日に開催した場合
株主総会で決議をした日から1ヶ月 6月20日
事業年度開始日4月1日から4カ月 7月31日
この場合は、6月20日が提出期限となります。
なお、新設法人の場合は、設立日から2ヶ月以内の日が提出期限となります。
3. 業績連動給与
業績連動給与とは、企業の業績と連動させて支給する役員報酬のことです。
業績連動給与を導入するには、さまざまな要件を満たさなければなりません。さらに、算定指標(企業の業績状況を示す数値)を定め、その指標に基づき給与を算出して算定方法を有価証券報告書に記載する必要があります。
業績連動給与導入は、役員に対してインセンティブを与えられます。結果、役員のモチベーションが上がり、企業価値向上にもつながるでしょう。
同時に柔軟な報酬設計が可能なため、優秀な人材を企業内外から確保しやすいメリットがあります。
残念ながら、現状では有価証券報告書を提出しているような大企業にしか導入が難しいのが実情ですが、2017年の税制改革で業績指標の範囲が拡充されたため、自社が導入可能であるかを確認するとよいでしょう。
役員報酬額を賢く決めるための5つのポイント
役員報酬は、今後の資金繰りや同業他社の相場、従業員とのバランスなどを多角的に見て決定するのが重要です。ここでは、役員報酬を賢く決める具体的なポイントを紹介しますので、参考にしてください。
ポイント1: 会社の事業見通しと利益計画
役員報酬の決定は、会社の売上予測や利益計画に基づき、資金繰りを圧迫しない持続可能な範囲で設定することが大切です。
年間売上や粗利益、家賃や従業員の給与などの固定費を予測して、シュミレーションを行ってから金額を決定するのがよいでしょう。
また、役員報酬を高額にして未払いのままにすると、税務署から指摘を受ける可能性があります。キャッシュフローや資金繰りに応じて適切に設定するのがポイントです。
さらに、親族の役員に対する報酬支払いは税務調査の対象となりやすいため、特に注意しましょう。
ポイント2: 同業他社や企業規模別の役員報酬相場
役員報酬は、同業他社や類似規模の企業の役員報酬水準を参考にしましょう。設定した報酬額の妥当性が高まり、税務署から指摘されるリスク低減につながります。
ポイント3: 従業員の給与とのバランス
役員報酬は、従業員の給与とのバランスを考慮するのも重要です。
たとえば、役員の報酬が他社よりも高い場合、能力や貢献度が評価されていると感じられ、役員のモチベーションが高くなるでしょう。また、モチベーションの高さがパフォーマンス向上につながりやすくなります。
同様に、従業員のモチベーションを高めるための配慮も大切です。
また、役員報酬が従業員給与よりも高過ぎると、株主や従業員から不満や不信が高まる可能性があります。役員が従業員のモチベーションを高めるためには、従業員の給与水準を考慮して、社内の不公平感をなくした役員報酬を設定するのがポイントです。
ポイント4: 法人税と個人の所得税・社会保険料のバランス
役員報酬額は、法人税や個人の所得税・住民税、社会保険料などにも影響します。
役員報酬が多いと、損金算入が増え、法人税など会社の支払うべき税金は減少します。しかしその分、役員個人の所得が増えるため、所得税や社会保険料などが増加することになります。
役員報酬を決めるには、法人と役員個人の生活水準から負担のバランスを考慮して、最適な報酬額を見極める必要があります。
ポイント5: 「不相当に高額」と指摘されないための注意
役員報酬は、決定した額の論理的な根拠を明確にしておくのが重要です。
税務署から役員報酬が「妥当な報酬額」と判断されるためには、会社の収益状況や同業他社水準、役員の職務内容など総合的に判断するのがよいでしょう。
役員報酬が同業他社水準と比べて極端に高い場合は、「不相当に高額」とみなされて損金計上が認められない可能性があります。また、業務をほとんど行っていない役員の報酬がある場合も、不相当であると判断されるケースがあるため注意が必要です。
役員報酬の決定は税理士への相談が不可欠
役員報酬の決定は、会社の税負担や資金繰りなど、今後の経営状態に大きく影響します。
役員報酬の形態や損金算入の要件などを深く理解するのが重要ですが、「妥当な報酬額」は会社の経営状態やさまざまな条件によって大きく左右されてしまうでしょう。
役員報酬の決め方について、より詳しく知りたい場合や自社に合う決め方を知りたい場合は、税理士に相談するのがおすすめです。
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