法人決算は税理士なしでもできる?リスクと専門家へ依頼すべき判断基準を解説

法人決算を税理士に依頼せずに自身で進めるには、知っておくべきリスクや手順があります。本記事では、法人決算を専門家へ依頼すべきかの判断基準や、税理士のサポートによるメリットなどについて解説するので、ぜひ参考にしてください。
法人決算は税理士なしでも可能|ただし「できる会社」は限られる
法人の決算申告は、法律上、税理士なしで自力で申告することが可能です。しかし、無理なく正確にやり切れるかどうかは別問題といえるでしょう。
毎年の税制改正への適応に加え、法人と個人とでは、同じ決算申告でも複雑さのレベルが格段に違うのが大きな理由です。この章では、それらの理由について解説します。
税理士の独占業務とは|経営者が自社決算を行うこととの違い
税理士の独占業務とは、報酬を得て人のために「税務代理・税務書類の作成・税務相談」を行うことです。
- 誰のため:依頼主のため
- 報酬の有無:発生する
- 決算申告書の作成、提出:行うことができる
経営者が自社の決算申告を行うのは、自身・自社のために納税義務者としての行為です。対して、税理士は報酬を得ることで依頼主のために行います。ここで注意したいのは、「税理士資格がない法人外部の人間は、有償・無償に関わらず決算申告書の作成・提出に関わってはいけない」という点です。社外の人間でこれらの作業に関わることができるのは、まさしく「税理士のみ=独占業務」となります。
税理士は法人税申告の約9割に関与している
法人税の決算申告の税理士関与率は、所得税に比べて4倍以上もの確率になります。最新の具体的な数字でいうと「法人税:約9割 所得税:約2割」の関与率で、法人税申告はそれだけ煩雑で難易度が高い作業であるといえるでしょう。
【各税目の税理士関与率】
| R2年度 | R3年度 | R4年度 | R5年度 | R6年度 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 所得税 | 21.1% | 21.0% | 20.4% | 20.4% | 20.4% |
| 相続税 | 86.1% | 86.1% | 85.9% | 86.3% | 86.5% |
| 法人税 | 89.4% | 89.5% | 89.5% | 89.8% | 89.8% |
法人決算と個人事業主の確定申告の違いとは
法人決算申告が、個人事業主の確定申告(所得税)にくらべてハードルが高いのには理由があります。主な3つの理由は以下のとおりです。
- 法人決算の方が作成書類の量が多い(別表・勘定科目内訳明細書・法人事業概況説明書など)
- 法人決算の申告先は国税と地方税に分かれている(国・都道府県・市)
- 法人決算は株主総会での承認が必要である(もしくは社員総会)
法人決算を税理士なしで行うメリット
ここでは、法人決算を自身で行うメリットについて解説します。経営者は自走できる知識やノウハウが必要になりますが、費用面ではそれ以上の大きなメリットを享受できるでしょう。
税理士費用を削減できる
法人決算を自社で行う場合の最大のメリットは、税理士費用がかからないことです。
通常、法人の税理士費用は、決算申告のみのスポット契約と顧問契約(月額+決算申告料)に分かれます。最も低く見積もっても月額は2万円以上、決算申告料は10万円以上が相場で、顧問契約を結んでいる場合は年間35万円以上にもなるため、決算申告を自社で行うのは大きな費用削減となるでしょう。
自社のお金の流れ・利益構造を経営者自身が把握できる
自身で会計データと深く向き合うことで、自社のお金の流れが把握でき、資金繰りの弱点やパターンが理解できるようになるのも利点の一つです。利益の出どころや無駄な支出などが分かれば、これからの経営にダイレクトに活かすことができるので、重要なメリットといえるでしょう。
税理士とのやり取りにかかる時間・手間が不要になる
税理士とのやり取りが不要なので、余計な手間がかからないのもメリットです。資料の受け渡しや質問事項への回答、面談日程の調整など、付随するコストや時間、手間が一切ないため、自社の都合で決算の準備が進められるでしょう。
法人決算を税理士なしで行うデメリットとリスク
前項では法人決算を自社で行う場合のメリットを紹介しましたが、専門家の存在には然るべき理由があります。ここでは、税理士なしで決算申告を行うデメリットと、誰もが回避したいリスクについて解説します。
申告ミスによる過少申告加算税・無申告加算税・延滞税が発生
申告に誤りがあった場合のペナルティ(行政的制裁)は次のとおりです。
| 税率 | ペナルティが課されるケース | |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 10% ※1 | 申告納税額に不足があった場合 |
| 無申告加算税 | 原則15%~ | 申告納税をしていなかった場合 |
| 延滞税 | 納期限後2ケ月以内 2.8% 上記以降 9.1% (R8の場合) | 上記加算税が課される場合、納付までの日数分発生(利息に該当する)※2 |
※1 追加で納税する額が当初の納税額もしくは50万円のいずれか多い方の金額を超えている場合、超えた部分は15%
※2 延滞税は、過少申告加算税、無申告加算税のどちらか一方と一緒に課税される
故意に納税を免れようとしたわけではなくても、申告に不足があった場合、上記の加算税が発生します。また、修正申告となった場合の税理士への依頼費用は10万円~30万円程度が相場となるため、申告ミスは税理士なしの決算申告の最大のリスクといえるでしょう。
さらに、悪質であるとみなされた場合には重加算税が課されます。重加算税については「重加算税とは?法人に課される要件・税率・計算方法から税務調査での対応策まで解説」の記事でも説明しているのでご一読ください。
合法的な節税の機会を取りこぼす
税理士なしの法人決算は、適正な節税の実行が困難になる確率が高まります。理由は、役員報酬の適切な設計、各種最新の税制の適用などの判断は、税理士ならではの豊富な経験と専門知識が大きく影響するからです。
中長期目線での資金繰りを考えて、合法的な節税・健全な事業運営を目指したい方は、専門家のサポートを得るのが得策でしょう。
経営者・経理担当者の時間を大量に消費する
事業規模にもよりますが、事業初年度は記帳整理から申告までを自身で行うと、多くの労力や時間を費やす可能性が高いでしょう。税理士に決算を依頼した場合は、その分本業に集中することができます。税理士なしの決算は、事業拡大・経営上の問題点解決など、事業成長のためリソース投入の機会損失といっても過言ではありません。
税務調査で処理の根拠を自社で説明する必要がある
万が一の税務調査でも、税理士なしで決算申告をしていた場合は不利な立場に陥りやすくなります。調査時に立ち合い、説明を代行してくれる専門家がいないということは、根拠資料を自身で示さなければならないため、税務調査を円滑に進めるのが難しくなりやすいでしょう。
また、税務調査のみ税理士に依頼したとしても、税理士は決算申告時の詳しい状況を完全には把握するのは難しいため、不利なリスクが残るのは否めません。
決算書の精度が低いと融資・補助金申請で不利になる
決算書は、「会社の信用度を示す資料」といえます。融資や補助金審査の際は、決算書に不備や疑問が残るような内容であると不利になりがちなため、専門家の力を借りるのが確実です。融資や補助金申請のための精度の高い決算書を作成するには、税理士の関与が、確実性・信頼度を押し上げるでしょう。
税法改正への対応を常に追い続ける必要がある
税理士に法人決算を依頼しない場合は、常に情報収集し最新の制度を理解しておくのが重要です。しかし、毎年行われる税制改正や、インボイス制度・電子帳簿保存法など、時の流れとともに見直されるルールを自社の法人決算に反映するのは、難易度が高い作業といえるでしょう。
税理士なしで法人決算を進める手順
一見すると、デメリットの方が多い税理士なしの法人決算ですが、実行が不可能なわけではありません。ここでは、自身で法人決算を進める手順をステップ式に解説します。
STEP1:1年分の取引を記帳して証憑を整理する
最も基本的で重要な作業は「記帳」です。現金・預金・クレジットカードなど、事業に関するお金の動きを、漏れなく正確に記帳するのが大切です。
- 預金通帳
- カード明細
- 請求書
- 領収書
- 給与台帳 など
上記の書類を、日々適切に整理、記帳するようにしましょう。特に、現金の流れは時間が経つとわからなくなりがちなので、請求書・領収書などの証憑を必ず残すのが重要です。後で直すといった、曖昧な処理が最も危険な行為なので注意しましょう。
STEP2:試算表を作成して通帳・請求書と残高を合わせる
試算表には「貸借対照表(B/S)」と「損益計算書(P/L)」がありますが、貸借対照表を正確に作成するには注意すべきポイントがあります。
貸方、借方の一致はもちろんですが、現預金・売掛金・買掛金・借入金などの残高が実態と合っているかも重要です。特に、売掛金は入金時に手数料が引かれていることもあるので、残高確認は都度行うのが大切です。また、借入金は、元本(負債)と支払利息(費用)の記帳に間違いがあると利益にも影響するので、必ず元本の残高確認をするようにしましょう。
STEP3:決算整理仕訳を行う
日常の記帳とは別に、期末には決算整理仕訳が必要になります。具体例は以下のとおりで、期をまたぐ収益・費用を正確に切り分けるのが目的です。
- 期末に支払った次期1ヶ月目の地代家賃→ 前払費用/現預金
- 期末に支払った年払いの保険料→ 次期以降分のみ 前払費用/現預金
- 決算月に発生した士業への未払報酬→ 支払報酬料/未払費用
- 決算月に発生した売上→ 売掛金/売上
- 決算月に発生した仕入→ 仕入/未払金・未払費用 など
STEP4:決算書を作成する
会社法上の計算書類である「決算書」とは、以下の書類のことです。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 貸借対照表(B/S) | 資産・負債・純資産について記載 会社の現在の経営成績を表す書類 |
| 損益計算書(P/L) | 収益・費用について記載 会社の一年間の収益を把握するための書類 |
| 株主資本等変動計算書 | 貸借対照表(B/S)の純資産についての一年間の動きと理由を表す書類 |
| 個別注記表 | 会社法に沿った会社の個別の注記事項(計算ルールや補足情報)を記載した書類 |
上記のうち、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)は、記帳さえ正確にこなしていればほとんどの会計ソフトで自動で作成できます。しかし、株主資本等変動計算書や個別注記表に関しては一部編集が必要になる場合があるので、内容を深く理解しておくようにしましょう。
STEP5:取締役会・株主総会で決算を承認して議事録を作成する
法人の決算では、役員による決算申告書の承認が必要になります。また、取締役会や株主総会で承認手続きをした際の議事録は必ず残しておかなければなりません。
それは、会社は株主のために存在し、役員は経営状態を株主に説明する責任があるからです。会社の責任と決定権は役員にあり、決算の承認と議事録の作成は会社法でも定められています。
STEP6:申告書を作成して申告する
いよいよ申告書の作成と申告手続きです。法人決算の、最も負担が重い工程であるといえるでしょう。主な申告先を以下にまとめます。
| 提出先 | 税目 | 利用できるシステム |
|---|---|---|
| 税務署 | 法人税・地方法人税 消費税 | e-Tax |
| 都道府県 | 法人住民税 事業税 | eL-TAX |
| 市区町村 | 法人住民税 | eL-TAX |
e-TaxやeL-TAXは、インターネットを通じて24時間申告・納税が可能なシステムで、国税庁や地方自治体が推進しているDX(デジタルトランスフォーメーション)の一貫です。
▼参考:国税庁|税務行政のデジタル・トランスフォーメーション
STEP7:納税と帳簿・書類の保存
各税の納付方法もさまざまで、具体的には次のとおりです。
- ダイレクト納付:e-Taxで事前に登録した口座から指定した日に引き落とし
- 振替納税:事前に登録した口座から国税庁が指定した日に振替
- クレジット決済:自身でクレジット決済手続き
- ネットバンキング:自身でインターネットネットバンキングで納付
- スマホアプリ:自身で専用のサイトからスマホアプリ決済
- 窓口納付:自身で税務署や金融機関の窓口で納付 など
また、帳簿書類の保存期間も、きちんと理解しておきましょう。電子帳簿保存法では原則7年とされていますが、繰越欠損金がある場合は最長で10年の保存が必要になります。
▼参考:
国税庁|国税の納付手続
eL-TAX|地方税お支払サイト
国税庁|電子帳簿等保存制度特設サイト
税理士なしで決算申告できる会社・やめた方がいい会社の判断基準
ここでは、法人決算を税理士なしで進められるかの判断ポイントについて紹介します。自社がどちらにあてはまるのか、参考にしてください。
自社で決算申告しやすい会社の条件
自身で法人決算を行いやすいかどうかには、いくつかの判断基準があります。どの会社にもあてはまる絶対的な条件ではありませんが、ぜひ参考にしてください。
- 年間の取引数が少なく内容がシンプルである
- 役員報酬が固定されている
- 従業員がいない(少ない)
- 節税対策にこだわらない
- 消費税免税事業者である
- 固定資産がほとんどない
- 記帳から申告まで対応している会計ソフトを導入している など
税理士に依頼すべき会社の条件
税理士に依頼すべき会社にも、いくつかの判断基準があります。以下にあてはまる場合には、専門家への依頼をおすすめします。
- 従業員がいる(多い)※3 給与支給・年末調整・源泉所得税納付義務が発生するため
- 消費税課税事業者である ※4 インボイス制度に登録している・簡易課税制度の検討が必要な場合など
- 融資や補助金申請の予定がある
- 年間の仕訳数が多い ※5 過去の会計データが正確ではない場合も含む
法人決算は「税理士に任せる」ことで良い結果につながることも多い
ここまで解説してきたように、法人決算を自身で行うことは可能ですが、すべての法人におすすめできるわけではありません。会社の規模や経営状態などにより「最適解」は各社さまざまで、税理士の専門知識やノウハウが事業をより良い結果へ導くケースも多いでしょう。二見達彦税理士では、決算申告に限らず、あなたの会社にとっての最善の道を見極めるお手伝いが可能です。税理士へ依頼するかどうかにかかわらず、まずは弊所の無料相談をご活用ください。
