法人成りでの資産の引き継ぎ方|賢い移行方法や注意点を詳しく解説

法人成りで最も有利に資産を引き継ぐには、「状況に応じた引き継ぎ方法」と「それぞれの方法に適した資産」を正確に知るのが重要です。この記事では、資産別の注意点や具体的な仕訳方法などを分かりやすく解説します。
法人成りで「資産引き継ぎ」が必要な理由
「法人成りをして資産を引き継がない」=「法人の事業で資産を利用できない」
事業を運営する者は同じなのに、なぜ法人成りをすると資産の引き継ぎが必要になるのでしょうか。具体的な理由を、以下で詳しくみていきましょう。
法人と個人事業主は法律上「別の人格」
「法人成りしても事業を運営する者は変わらないのに、なぜ資産の引き継ぎが必要なのか」
答えは、個人事業主は「所得税法」、法人は「会社法」「法人税法」に基づく会計基準や税務処理、資金区分でなければならないため、別人格とされているからです。
あらゆる面で自由度の高い個人事業主ですが、法人成りすると、法人と個人の資産は明確に区別して、売買・贈与など、何らかの方法で法人に引き継ぐ必要があります。
資産の引き継ぎ手続きをしないとどうなる?実務上のリスク
法人成りをして資産を引き継がなかった場合、基本的に個人名義の資産は法人の事業で利用できません。資産名義の不一致から生じる、具体的な問題は次のとおりです。
税務上の問題
・在庫の売買ができない
・個人名義の資産に関連する経費計上ができない(資産の減価償却費の経費計上、社用車の車検、ガソリン代 など)
金融機関の問題
・プライベート資金と混同されやすく、税務署の指摘のリスクが高まる
法人化に伴う「引き継ぎ資産」の種類とは
資産といってもその種類は多岐にわたります。ここでは、法人成りの場面でよくみられる代表的な資産別に、それぞれの特徴や注意すべき点を紹介します。
棚卸資産(在庫・仕掛品)
法人が在庫・仕掛品などの棚卸資産を引き継ぐ場合は、時価評価が原則です。しかし、例外として、型落ちした商品や品質劣化したものは低価格(処分価格)が適用されるケースがあります。その場合は、「合理的な価格」であることが最も重要です。
法人個人ともにその後の税額に影響するので、具体的な在庫数や評価方法決定の記録を残しておくようにしましょう。
減価償却資産(PC・設備・機械など)
PCや設備、車両運搬具などの減価償却資産は時価譲渡が原則です。留意点すべき点は、譲渡所得の発生です。減価償却資産は毎年価値(簿価)が減少するため、個人事業での帳簿価額より法人が譲り受けた評価額の方が上回ることがあるので注意が必要です。なお、時価が不明な場合は簿価を基準としての譲渡が認められています。
また、法人側では譲渡された固定資産は新品ではないため、中古資産としての減価償却となることも心に留めておきましょう。
不動産(事務所・店舗・土地)
不動産も引き継がれやすい固定資産の一つです。これらも時価譲渡が原則ですが、不動産の時価判定は複雑であること、個人事業側に多額の譲渡所得が発生する可能性があることから、「賃貸借契約」が最も選ばれやすい方法です。
【番外編】資産だけではない!負債も引き継げる法人成り
資産とは異なり、負債は基本的に自動的に法人に引き継がれることはありません。実質、個人のまま精算するケースが多いのですが、あえて引き継ぐ場合の引き継ぎ方は以下のとおりです。
金融機関借入金の場合
借入金は、金融機関の協議・審査を経て承認を得ることで、法人が債務のすべて、または一部を引き継ぐことができます。
適切な手続きを取らずに負債を受け継ぐと、法人から個人事業者への利益供与とみなされ、双方にペナルティが課されるリスクがあるので注意しましょう。
買掛金・未払金などの場合
取引先の同意を得て、法人が債務を引き継ぐことが可能です。しかし、契約の変更が必要になる場合があるので、取引先との協議できちんと確認するようにしましょう。
不動産ローンの場合
不動産ローンも原則として個人に残ります。これは、たとえ不動産の所有権が法人に移転しても変わりません。ただし、債権者(金融機関)の承認を得られれば、法人に債務移転が可能になります。しかし、実務的には法人が新規融資を受け、その資金でローンを返済する方式がほとんどです。
引き継げない資産・引き継がないほうがいい資産
個人が所有するすべての資産を、必ずしも法人が引き継ぐ必要はありません。中には、「引き継げない資産」や「引き継がない方がいい資産」もあります。具体的な例は、次のとおりです。
【引き継げない資産】
| 資産の種類 | 理由・対処法 |
|---|---|
| 営業許可証(飲食業・理美容業・建設業など) | 個人と法人は別人格とみなされるため。法人成りして同じ業務を続けるには法人名義で新たに許可を取得する |
| リース契約 | リース対象の固定資産の所有権はリース会社にあり勝手に移転できないため。法人として継続したい場合は新たに契約する |
| 広告・通信関係・保守点検など取引先との契約 | 個人と法人は別人格と判断され、取引先の審査内容や口座名義変更などさまざまな条件が変わるため。法人として新たに契約を結びなおす |
| 税金還付の権利 | 個人と法人は別の納税者であるため。法人としては還付不可だが個人として還付請求が可能 |
【引き継がない方がいい資産】
| 資産の種類 | 理由・対処法 |
|---|---|
| 回収できない可能性の高い売掛金・未収金 | 法人の決算書で「資産」として残り続けてしまい、金融機関からの評価が低くなるため。個人事業に残し最後の確定申告や廃業の特例(※1)などで処理するのがおすすめ |
| 高額・購入したばかりの新車 | 高額の譲渡所得が発生する可能性があるため。所有者移転に多額の経費が発生するため。個人所有のままで、法人で「事業利用の記録」を残してガソリン代や経費を計上するのがおすすめ |
| 事業と関連の低い固定資産 | プライベート利用率が高い場合は経費計上しても税務署から否認されるリスクが高いため。経費が否認されると、個人側で「役員報酬支給」と同じ扱いになり所得税が発生する可能性があるので注意が必要 |
※1 廃業の特例:所得税法第63条の「事業を廃止しなかったとしたならば必要経費に算入されるべき金額」に貸倒損失が含まれる
参考:国税庁|法第63条《事業を廃止した場合の必要経費の特例》関係
【比較でわかる】資産の主要な引き継ぎ方法
個人事業から法人成りした際の資産の引き継ぎ方法として、「売買(譲渡)」「賃貸借」「現物出資」「贈与」があります。これらに共通しているのは「対象資産の『個人事業の帳簿の終わり』と『法人の帳簿の始まり』の整合性を保つ必要がある」ことです。
売買契約
資産の引き継ぎ方で、最もシンプルなのが「売買契約」です。個人所有の資産を時価で法人に売却するこの方法は、手続きが非常に簡単で一般的といえるでしょう。
法人側で購入資金があれば成り立つこの手法ですが、注意すべきは個人側の売却益です。個人として納税の義務が生じる可能性があるため、トータルのバランスをよく考えて検討する必要があります。
賃貸借契約
「賃貸借契約」は、不動産や事業用機材などに向いている引き継ぎ方法といえるでしょう。特に、売却コストが高い資産に有効で、売却の手間がかからないのがメリットです。個人事業主と法人とで賃貸契約を結ぶことで「貸主=個人」「借主=法人」という図式になります。
しかし、ここでも個人の利益が問題になりがちです。賃貸収入が個人の所得になるので、毎年の確定申告と納税義務発生のリスクは念頭に置いておきましょう。
現物出資
個人事業で使っていた資産の現物を、法人の資本金として出資する「現物出資」は、資本金が不足しているときに有効な手法です。現物出資することで、資本金を希望どおりの額にして信用度をアップさせることが見込めるでしょう。
ですが、この方法も「個人が法人に資産を売却した」のと同じ扱いになり、時価が簿価を上回っている場合は譲渡益が発生するので注意が必要です。個人事業で消費税課税事業者である場合は、特にご留意ください。
また、資産価額が500万円を超えるケースでは、厳密な資産評価のため、裁判所が選任した検査役の調査を受ける必要があります。手続きが煩雑で時間や費用もかかるので、資産500万円超では一般的には使われないのが実情です。資産500万円以下の場合は、一定の要件を満たすと検査が免除されるため、実際に活用されることもあります。※2
※2 資産が500万円以下のケースでも定款への記載や財産引き継ぎ書の作成などの諸手続きが必要
贈与契約
「贈与契約」は、個人が法人に資産を無償で譲る方法です。一見コストがかからないようにみえますが、「みなし譲渡」とみなされ、個人事業主、法人ともに納税義務が発生する可能性があります。これらは、売買契約同様、資産の売却額(時価)と簿価の差額で決まるのですが、一般的にはあまり使用されていない方法です。
無償・格安引き継ぎで税額が発生!「みなし譲渡」の落とし穴
ここでは、前項で述べた「みなし譲渡」について詳しく説明します。
みなし譲渡が適用される条件
みなし譲渡とは、「時価で売ったとみなして課税されること」です。対象となる例としては、主に下記の2つのケースが挙げられます。
・無償で譲渡したケース
・時価の1/2未満で譲渡したケース:(例)時価100万円の資産を20万円で譲渡した場合
みなし譲渡で法人・個人に発生する所得とは
みなし譲渡が適用された場合の、具体的な課税関係を解説します。前項の「時価100万円の資産を20万円で譲渡」したパターンでみていきましょう。
【個人事業主側のみなし譲渡】
時価-簿価=譲渡所得
・簿価50万円の場合 100万円-50万円=譲渡所得50万円 所得税・住民税が課される
・簿価120万円の場合 100万円-120万円=△20万円 赤字(譲渡損失)のため所得税は発生しない
【法人側のみなし譲渡】
時価-実際の支払額=受増益(益金)
・100万円-20万円=受贈益(益金)80万円
・譲渡があった期の利益に加算され法人税等の負担が増える
・資産の期首の簿価は100万円となる
みなし譲渡を避けるための実務的な対処法
みなし譲渡認定を回避するには、押さえておくべきポイントがあります。以下にまとめるので、深く理解しておくようにしましょう。
・売買契約では「時価」での取引を徹底する
・適正な時価の算定であること(場合によっては専門家への相談推奨)
・時価が変動しやすい資産の所有権移転は慎重に検討する
・契約書のほか詳細が把握できるように財産目録を作成しておく
・法人側では株主総会議事録を作成して詳細を記録しておく
【資産別】最適な引き継ぎ方法と仕訳例
法人成りでは、資産の種類によってそれぞれ適している引き継ぎ方法があります。ここでは、仕訳例も含めて紹介します。
パソコン・業務機器の場合
・売買契約が基本
・時価(簿価が目安)で売買する
【個人事業主側仕訳】未収金 / 工具器具備品
【法人側仕訳】 工具器具備品 / 未払金or役員借入金
自動車・車両の場合
・売買契約、賃貸借契約のどちらも適している
・売買契約は時価(簿価が目安)で売買
・売買契約は別途名義変更、自動車保険の引き継ぎなどが必要
【売買契約:個人事業主側仕訳】未収金 / 車両運搬具
【売買契約:法人側仕訳】 車両運搬具 / 未払金or役員借入金
在庫(棚卸資産)の場合
・売買契約が原則
・時価で売買(特例あり)
【個人事業主側仕訳】未収金 / 売上高
【法人側仕訳】 仕入高 / 未払金or役員借入金
ここで注意したいのが、法人が消費税課税事業者なのか、免税事業者なのかです。課税事業者である場合は特段影響はありませんが、免税事業者の場合は、支払った消費税は戻ってこないままとなります。また、個人事業主側が消費税課税事業者である場合も、その年の課税売上高が増えるので注意しましょう。
不動産の場合
・賃貸借が選ばれやすい(時価の変動リスクが高く個人譲渡所得に影響するため)
・賃貸借は名義変更が不要で別途発生する経費負担が少ない
・賃料設定は「近隣の相場に合わせる」または「固定資産税合計額の2~3倍程度」が目安(無償はNG)
【負債】金融機関からの借入金の引き継ぎ方法と仕訳例
・金融機関に免責的債務引受(債務はすべて法人)か重畳的債務引受(ちょうじょうてきさいむひきうけ:債務は個人と法人)を承認してもらい名義を変更する
・法人での貸借対照表のバランスがその後の融資審査に大きく影響するため、金融機関と事前の協議が必要
【個人事業主側仕訳】長期借入金 / 事業主借
【法人側仕訳】 役員貸付金 / 長期借入金
上記でいくつかの資産の引き継ぎ方を紹介しましたが、法人化してからの固定資産については、「法人向け固定資産税の徹底解説|計算方法から節税対策、申告・納付のポイントまで」の記事でも解説しているので、ぜひご一読ください。
資産の引き継ぎを伴う法人成りでは税理士への相談をご検討ください
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